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ニュースのことば約8分

ニュースの「ワイドバンドギャップ半導体」とは? SiCとGaNをやさしく

ニュースでは「ワイドバンドギャップ半導体」「電気自動車にSiC」「GaNの急速充電器」といった言葉をよく見かけます。たいていは2つの材料、炭化ケイ素(SiC、シリコンカーバイド)と窒化ガリウム(GaN)のことです。共通点は、「バンドギャップ」がシリコンよりずっと広いこと。日本語のニュースでは「次世代パワー半導体」とも呼ばれ、中国語圏のニュースでは「第3世代半導体」と呼ばれます。この「世代」はチップをつくる材料の話で、新しい世代のシリコンのプロセスではなく、「2ナノ」とは別の話です。

なぜ「第3世代」と呼ばれるのか

中国語圏のメディアでよく使われる分け方で、材料が広く使われはじめたおおよその順番です。

  • 第1世代:シリコンとゲルマニウム。どちらも1種類の元素です。いまのチップの大部分はシリコンでつくられています。
  • 第2世代:ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)やリン化インジウムなどの化合物半導体、つまり2種類の元素を組み合わせた材料です。スマートフォンで無線の信号を増幅する部品や、光ファイバー通信のレーザーによく使われます。
  • 第3世代:炭化ケイ素(ケイ素と炭素)と窒化ガリウム(ガリウムと窒素)。これも化合物で、バンドギャップがとくに広い材料です。

日本語や英語では「第何世代」とは言わず、ワイドバンドギャップ半導体(英語ではwide-bandgap semiconductor)と呼ぶのが普通です。それに「第3世代」が前の2つを置き換えたわけではなく、3つとも今も使われています。

バンドギャップとは

「半導体とは? なぜ「半」導体なのか」では「手」で考えました。シリコン原子は4本の手でとなりの原子とつながっていて、つながれている電子は動けません。電子が手を離して自由に動く(つまり電気を通す)には、少し力、つまりエネルギーが要ります。電子が「跳び上がって」電気を通しはじめるのに要る最小のエネルギーが、バンドギャップです。

段差だと思ってください。電子は段の上に跳び上がってはじめて走り回れます。段が高いほど、跳ぶのは大変です。

単位のeVは電子ボルトで、電子1個が1ボルトの電圧で押されたときに得るエネルギーです。

材料バンドギャップ(おおよそ)
シリコン1.1 eV
ヒ化ガリウム1.4 eV
炭化ケイ素3.2〜3.3 eV
窒化ガリウム3.4 eV

炭化ケイ素と窒化ガリウムの段は、シリコンのおよそ3倍の高さです。これが「ワイドバンドギャップ」(バンドギャップが広い)という意味です。

バンドギャップが広いと、何がいいのか

熱に強い

温度が上がるほど原子は激しく揺れ、一部の電子を揺すって自由にしてしまいます。シリコンは段が低いので、熱くなりすぎると、ひとりでに跳び上がる電子が、ドーピングでわざと入れた分より多くなり、スイッチが切れなくなってリークし続けます。炭化ケイ素や窒化ガリウムは段が高いので、シリコンよりずっと高い温度でも、ふつうにオンとオフを切り替えられます。

高い電圧に強い

電圧が高いと、材料の中の電界が強くなり、電子を無理やり引きはがします。はがれた電子がさらに別の電子をはじき出し、なだれのように増えて、素子は壊れます。段が高い材料は、ずっと強い電界にならないとはがれません。炭化ケイ素と窒化ガリウムが耐えられる電界は、シリコンのおよそ10倍です。

スイッチが速く、むだが少ない

10倍の電界に耐えられるので、同じ電圧を止めるのに、電圧を受け止める層の厚さはおよそ10分の1ですみます。層が薄いと、電流が流れるときの抵抗がずっと小さくなり、素子も小さくできます。素子が小さいと、切り替えのたびにためては放す電気が少なくてすみ(「トランジスタとは?」の小さなコップです)、切り替えが速く、むだになる熱も減ります。

なぜ「スイッチが速い」ことが大事なのか

この2つの材料は、電力を扱うスイッチ(パワー半導体)によく使われるからです。コンセントの電気も電気自動車の電池の電気も、変換しないとスマートフォンやモーターには使えません。スイッチを1秒に何度も何度もオン・オフして電気を細かく刻み、必要な電圧に整えます。切り替えるたびに少しずつ電力がむだになり、熱に変わります。むだの少ないスイッチなら省エネで熱くなりにくく、速く切り替えられれば中のコイルやコンデンサーを小さくでき、充電器も小さくなります。

SiCとGaNはどこで使われている?

得意なことが少し違います。

  • 炭化ケイ素:より高い電圧、より大きな電力が得意で、熱もシリコンより逃がしやすい材料です。電気自動車でモーターに電力を送る部分、車載充電器、充電スタンド、太陽光発電を電力網につなぐ設備などに使われます。
  • 窒化ガリウム:とても速い切り替えが得意で、電圧がそれほど高くない(数百ボルトくらいまで)ところで多く使われます。スマートフォンやノートパソコンの急速充電器、サーバーの電源、基地局やレーダーで無線の信号を増幅する部品などです。青色や白色のLEDも、窒化ガリウムの仲間の材料でできています。

では、なぜ全部を置き換えないのか

  • 結晶を育てるのが難しい:シリコンのインゴットは、溶けたシリコンから回しながら引き上げます(「ウェーハはなぜ丸いのか」)。炭化ケイ素はおもに別の方法で、2000°Cを超える高温で粉を気体にし、小さな種結晶の上にゆっくり固まらせます。シリコンのインゴットより数十倍から百倍ほども遅く、結晶に欠陥もできやすいのです。
  • 硬くて切りにくい:炭化ケイ素はダイヤモンドに近い硬さです。ウェーハに切るのも平らに磨くのも難しく、時間がかかります。
  • ウェーハが小さくて高い:炭化ケイ素のウェーハは直径15センチ(6インチ)が多く、20センチ(8インチ)へ大きくしているところで、30センチ(12インチ)のシリコンウェーハより小さいのです。1枚からとれる素子は少なく、1枚の値段もずっと高くなります。
  • 窒化ガリウムは、たいてい別のウェーハの上に育てる:大きな窒化ガリウムの結晶はとてもつくりにくいので、ふつうはシリコンや炭化ケイ素、サファイアのウェーハの上に、窒化ガリウムを薄く成長させます。2つの材料は原子の間隔が違い、大きさの違うレンガを無理に積むようなもので、境目に欠陥ができやすくなります。
  • 歩留まり:欠陥が素子に当たると、その素子は電圧を止められなかったり、リークしたりします。大きな電流を流す素子は大きくつくることが多く、欠陥に当たりやすいので、歩留まりを上げるのが難しいのです(「ニュースの「歩留まり」とは?」)。

それに、スマートフォンのプロセッサやメモリのように100億個以上の小さなスイッチを詰めこむチップは、スイッチを小さく、多くすることが大事で、ワイドバンドギャップの強みは生きません。電圧の高くない電源のチップなら、シリコンで十分です。だからチップの大半は、電力を扱うチップの大半も含めて、今もシリコンでつくられています。

「2ナノ」と同じ話?

違います。「2ナノ」はシリコンのチップのプロセスの世代の名前で、同じ面積にスイッチをいくつ詰められるかの話です(「ニュースの「2ナノ」、いったい何が2ナノなのか?」で説明しています)。「第3世代半導体」は材料を変える話で、高い電圧や大きな電流、熱に耐えられるかの話です。

電力を扱うスイッチは、大きな電流を通し、高い電圧を止めるので、もともと大きくつくるものです。いちばん細い線幅は要りません。「ニュースの「成熟プロセス」とは?」の電源のチップと同じです。両者は別の問題を解いていて、どちらが進んでいるということはありません。

次にニュースで見たら、こう読める

  • 「ワイドバンドギャップ半導体」「次世代パワー半導体」(中国語圏では「第3世代半導体」):たいてい炭化ケイ素と窒化ガリウムという、バンドギャップの広い2つの材料のこと。新しい世代のシリコンのプロセスではありません。
  • 「電気自動車にSiC」:モーターや充電の電力を扱うスイッチを炭化ケイ素でつくる。変換でむだになる電力が少し減り、部品を小さくできる。
  • 「GaNの急速充電器」:充電器の中のスイッチを窒化ガリウムでつくる。切り替えが速いので、充電器を小さくできる。
  • 「超ワイドバンドギャップ」(中国語圏では「第4世代半導体」):酸化ガリウムやダイヤモンドなど、さらにバンドギャップの広い材料。多くはまだ研究や立ち上げの段階です。

fab24hrでは

ゲームの工場がつくっているのはシリコンのチップで、直径30センチ(12インチ)のシリコンのウェーハが1ケースに25枚入っています。炭化ケイ素や窒化ガリウムの工場は出てきません。

それでも、つくり方の多くは共通です。炭化ケイ素の素子も、ウェーハの上でリソグラフィでパターンを焼き、エッチングし、膜をつけ、原子を打ち込み、高温で熱します。違うのは条件です。炭化ケイ素に入れた原子はほとんど自分では広がらないので、決まった場所へのドーピングは、ほぼイオン注入だけに頼ります。打ち込んだあとは1500°C以上でアニールします。シリコンのウェーハを拡散炉で処理するときのふつうの800〜1200°Cより、ずっと高温です。

「工場の一日」の「今日のあなたは」カードで「量産工場」を押し、プロセスエンジニアまで左右にスワイプして、名前の下の「イオン注入」か「拡散炉」を押すと、シリコンウェーハのドーピングと加熱を受け持ちます。ゲームの会社、人物、装置は架空です。この記事は公開されている一般的な資料をもとに書き、資料によって数字が違うところは、おおよその大きさだけを書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。

ゲームのどこで出会うかゲームに炭化ケイ素や窒化ガリウムは出てきません。工場がつくっているのはシリコンのチップです。いちばん近いのは量産工場のイオン注入と拡散炉で、「工場の一日」の「今日のあなたは」カードで「量産工場」を押し、プロセスエンジニアまで左右にスワイプして、名前の下の「イオン注入」か「拡散炉」を押します。

fab24hrのウェーハはシリコンです。原子を打ち込み、高温で熱する工程は炭化ケイ素も同じですが、条件はずっと厳しくなります。

出勤して、シリコンウェーハが1工程ずつ進むのを見る

先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。

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