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チップの基本約8分

CMOSとは? チップのスイッチが2種類で1組になっている理由

CMOSは、いまのほぼすべてのデジタルチップが使っている回路のつくり方です。逆の動きをする2種類のスイッチを1組にして、片方が出力を電源に、もう片方が出力をグラウンドにつなぎます。正式な名前は相補型金属酸化膜半導体(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor、読みはシーモス)で、2種類のスイッチはNMOSとPMOSと呼ばれます。こう組み合わせると、スイッチが切り替わっていないあいだは、電源からグラウンドへほとんど電流が流れないので、電力が少なくてすみます。

「CMOS」で検索すると、ほかに2つの意味もよく出てきます。どちらも、名前はここから借りたものです。カメラやスマートフォンの「CMOSセンサー」は、同じCMOSのつくり方でつくった、光を感じるチップです。パソコンのマザーボードの「CMOS設定」は、昔のパソコンが日付や起動の設定を、CMOSでつくった小さなメモリに保存していたことから来ています。とても省電力なので、ボタン電池1つで何年ももちました。この記事で扱うのは1つめ、チップの中の回路です。

CMOSという名前を分けると、どういう意味?

まず後ろのMOSから。この3文字は、トランジスタの上から下への3つの層を表しています。

  • 金属(Metal):いちばん上の、スイッチを操作するゲート。もとは金属でつくっていました。
  • 酸化膜(Oxide):ゲートの下にある、電気を通さないとても薄い絶縁膜。もとは拡散炉でシリコンの表面を酸化させてつくる、酸化シリコンの膜でした。
  • 半導体(Semiconductor):いちばん下のシリコン。電気はここを流れます。

その後、材料は何度か変わりました。ゲートは長いあいだ電気を通すシリコンでつくられ、2000年代後半ごろから、最先端のチップでは金属に戻りました。絶縁膜の材料も変わっています。それでも名前はそのままです。この3つの層がどうやってスイッチになるかは「トランジスタとは?」へ。

先頭のCは「相補」(Complementary)。スイッチには逆の動きをする2種類があり、組み合わせると互いに足りないところを補い合う、という意味です。

2種類のスイッチは、どこが違う?

  • NMOS(n型のほう):ゲートに電圧をかけるとオン、電圧がないとオフ。
  • PMOS(p型のほう):その逆。片方の端が電源側につながっていて、ゲートがその端より低いときだけオンになります。ゲートに電圧がない(0ボルトの)ときはオン、電源と同じ高さの電圧をかけるとオフ。

名前のnとpは、スイッチの入口と出口(ソースとドレイン)が、n型とp型のどちらのシリコンかを表しています。n型とp型は、シリコンに別々の種類の原子を加えてつくります。くわしくは「ドーピングとは?」へ。

いちばん簡単なCMOS回路:インバータはどう動く?

インバータの仕事は1つだけ。1を入れると0が、0を入れると1が出てきます。スイッチは2つで足ります。

  • 上にPMOSを1つ。出力と電源のあいだにつなぎます。
  • 下にNMOSを1つ。出力とグラウンドのあいだにつなぎます。グラウンドは、電圧がいちばん低い(0ボルトの)側です。
  • 2つのスイッチのゲートをつないだものが、入力です。

出力の線を、小さな池だと考えてみてください。1本の管は高いところの給水塔(電源)へ、もう1本は低いところの排水溝(グラウンド)へつながっています。上の管のバルブがPMOS、下の管のバルブがNMOSです。開いているほうの管と同じ水位になります。水位が高ければ1、低ければ0です。

入力上のPMOS(電源側)下のNMOS(グラウンド側)出力
1(電圧が高い)オフオングラウンドにつながる:0
0(電圧が低い)オンオフ電源につながる:1

入力が1なら、ゲートに電圧がかかります。NMOSがオン、PMOSがオフになり、出力はグラウンドにつながって0です。入力が0ならその逆で、PMOSがオン、NMOSがオフになり、出力は電源につながって1です。

CMOSインバータのしくみ:上のPMOSが出力を電源に、下のNMOSが出力をグラウンドにつなぎ、2つのゲートをつないだものが入力。入力が1ならNMOSがオン、PMOSがオフで、出力はグラウンドにつながり0。入力が0ならPMOSがオン、NMOSがオフで、出力は電源につながり1。
0と1は、出力の線の電圧が高いか低いか。入力が1のときはグラウンド側のスイッチがオンで、出力は0になります(簡略図)。

では、チップの中の0と1とは何なのか

1本の線の電圧が、高いか低いかです。電源につながって電圧が高ければ1、グラウンドにつながって電圧が低ければ0。どれかのスイッチがオンになったら1、というわけではありません。

上の表をもう一度見てください。入力が1のとき、下のスイッチはオンなのに、出力は0です。スイッチのオン・オフが決めるのは、その線がどちら側につながるかです。CMOSでは、落ち着いたとき、どの出力の線も電源かグラウンドのどちらかにつながっているので、電圧ははっきり高いか低いかになります。その線が次の組のスイッチのゲートにつながり、次の組の入力になります。

プロセッサのような計算する論理回路では、こうなっています。メモリは少し違い、フラッシュメモリで1つのセルを読むときは、本当にそのスイッチがオンになりやすいかどうかを見ています(「メモリとプロセッサは何が違う?」)。

なぜ2種類を1組にするの?

電力が少なくてすむからです。

スイッチが1種類だけだと、反対側には抵抗のように、いつも少し開いたままのものをつないで、出力を電源側へ引っぱる必要があります。給水塔からの管が、いつも少しだけ開いているようなものです。下のバルブを開けると、水は給水塔から排水溝へそのまま流れ、出力が0のあいだはずっと流れ続けます。1970年代のコンピュータ用のチップには、このつくりのものが多くありました。速い代わりに、電力を多く使います。

CMOSは違います。切り替えていないときは、上下どちらかのスイッチが必ずオフなので、電源からグラウンドへの通り道がなく、電流はほとんど流れません。電気を使うのは、主に切り替わる瞬間です。水位を低から高にするには池を満たし、高から低にするには水を抜きます。この池にあたるのが、線と、次の組のスイッチのゲートです。切り替わる一瞬は、2つのスイッチが同時に半分ほど開いていて、少し電流が流れます。

残るのは、きっちり閉じないスイッチから漏れる電流で、リークといいます。スイッチ1つのリークはごくわずかでも、チップにはとても多くのスイッチがあるので、合わせると待機電流になります。くわしくは「チップはなぜ電気を使う?」へ。

電力が少なくてすむので、CMOSは1970年代、まずデジタル腕時計や電卓のような、小さな電池で動くものに使われました。1980年代にはデジタルチップの主流になり、いまでもほぼすべてのデジタルチップがCMOSです。

ほかの論理ゲートも、同じように組む?

はい。インバータはいちばん簡単なものです。2種類のスイッチを直列や並列につなぐと、ほかの論理ゲートができます。直列なら、全部がオンにならないと電気は通りません。並列なら、どれか1つがオンなら通ります。CMOSのきまりは、グラウンド側を直列にしたら電源側は並列にし、その逆も同じ、というものです。こうすると、入力がどうであっても、落ち着いたときにつながっているのは片側だけなので、やはり電力が少なくてすみます。論理ゲートが、計算するチップになるまでは「論理ゲートとは?」へ。

2種類のスイッチを、1枚のウェーハにどうつくる?

NMOSはp型のシリコンの上に、PMOSはn型のシリコンの上につくる必要があります。入口・出口と、その下のシリコンが逆の型なので、ふだんはオフなのです。そこで早い段階で、ウェーハにp型とn型の2種類の「土台」をつくります。これをウェルといいます。レジストで片側を覆って1種類の原子を打ち込み、レジストを替えて、もう1種類を打ち込みます(打ち込み方は「イオン注入とは?」へ)。そのあと、2種類のスイッチの入口と出口も、別々に打ち込みます。トランジスタが最初から最後までどうつくられるかは「トランジスタはどうやってつくる?」へ。

fab24hrでは

fab24hrのメインストーリー「チップの一生」は、架空の補聴器チップ「Glowmere」の物語です。2種類のスイッチは、いくつかの場面に出てきます。

  • 第1章「12枚をどう分ける」:あなたは開発インテグレーションエンジニアで、12枚のウェーハをそれぞれどのコーナーでつくるかを決めます。スプリット表のSFはN型が遅めでP型が速め、FSはその逆。2種類のスイッチの片方が速く、片方が遅くて、足並みがそろいません。
  • 第2章「一工程ずつ」:5日目、イオン注入装置の前で、まずNウェル、レジストを替えて次にPウェルを打ち込みます。
  • 第10章「待機電流」:あなたは後工程工場のテストエンジニアです。ビンでいちばん多い不良は「待機電流が高すぎる」。上限を厳しくするか緩めるかを決めて、テストプログラムに書き込みます。動いていないCMOSはほとんど電気を使わないので、残るのはリークです。顧客によれば、これがGlowmereでいちばん大事な数字です。

「工場の一日」でも遊べます。「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「開発ライン」を押し、左右にスワイプして開発プロセスエンジニアで止め、名前の下の「イオン注入」を押します。深夜シフトではN型トランジスタの両端になる原子を、昼シフトではP型のほうを打ち込みます。

ゲームに出てくる会社・チップ・人物・数字は架空です。CMOSのしくみと省電力の理由は、公開されている一般的な資料をもとに書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。

ゲームのどこで出会うかメインストーリー「チップの一生」第1章のスプリット表にあるSFとFSは、N型とP型の2種類のトランジスタが、片方は速め、片方は遅めにできたものです。第10章「待機電流」では、動いていないチップに残るリークを、どこまで許すかをあなたが決めます。

fab24hrでは、動いていないCMOSのチップに残るのは、ほぼリークだけ。補聴器チップ「Glowmere」でいちばん大事な数字は、このわずかな待機電流です。

第10章「待機電流」から遊ぶ

先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。

この記事を引用する「CMOSとは? チップのスイッチが2種類で1組になっている理由」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/what-is-cmos/
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