半導体IP(IPコア)とは? チップに「買ってきた回路」が入っている理由
半導体IPは、前もって設計して検証しておき、ライセンスを受けたほかの人が自分のチップの中に組み込める回路の設計です。IPコア、IPブロックとも呼ばれます。ビルを建てるとき、エレベーターを自分で発明する人はいません。できあいのものを買って、説明書どおりに取りつけます。売っているのは設計図で、チップではありません。買った人は、それを自分で描いた回路とつなぎ、まとめて半導体工場に渡して、1つのチップにしてもらいます。
まず1つ整理しておきます。英語では半導体IPを SIP(silicon IP)と略すことがあり、SiP(システム・イン・パッケージ)とは文字1つの大文字・小文字しか違いませんが、まったく別のものです。半導体IPはまだコンピューターの中にある回路の設計で、SiPはできあがったチップを抵抗やコンデンサといっしょに小さなモジュールにまとめたものです(SiPとは?)。
なぜ「知的財産」と呼ぶのか
IPは Intellectual Property(知的財産)の略です。だれかが時間とお金をかけて考え出したもので、使うには許可が要り、ふつうはお金を払います。この許可がライセンスです。ウェーハの上にできるチップは買った人のもので、IPはその中の一区画にすぎません。
チップの中で、よく買ってくるのはどこ?
スマートフォンのSoCは1棟のビルのようなもので、プロセッサ、グラフィックス、通信がそれぞれの階にあります(SoCとは?)。トランジスタが100億個以上もあると、すべての区画をゼロから描くことはまずありません。よく買ってくるのは次のようなものです。
- プロセッサコア:プログラムに従って一歩ずつ計算する部分。
- メモリ:チップの中でデータをしまっておく小さなメモリ。
- メモリインターフェース:チップの外にあるメモリとデータをやりとりする回路。
- 高速インターフェース:ほかのチップや画面、充電端子につないだケーブルとデータをやりとりする回路。どちらのインターフェースも業界共通の規格どおりにつくらないと、ほかの人の機器とつながりません。
- アナログ回路:なめらかに変わる信号を扱う回路。たとえば、チップ全体に拍子を送るクロックの回路や、音のような信号を数字に変える回路です(アナログ半導体とデジタル半導体は何が違う?)。
- 標準セルライブラリ:いちばん小さな部品の集まりで、論理ゲートや、0か1を1つ覚えておく小さな回路です。設計ソフトが回路を論理ゲートに変えるとき、使うのはこれです。工場が用意することもあれば、ほかの会社から買うこともあります(チップはどうやって設計する?)。
ソフトIPとハードIPは何が違う?
- ソフトIP:渡されるのは、ハードウェア記述言語で書いた回路の記述です。料理のレシピのようなもので、買った人が自分の設計ソフトで論理ゲートに変え、配置を決めます。
- ハードIP:渡されるのは、もう配置ずみの図形です。トランジスタ1つ1つの場所も配線の通り道も決まっていて、工場で組み立てて部屋ごと運んでくるユニットのようなものです。ある工場のある世代のプロセスに合わせて描かれています。
| ソフトIP | ハードIP | |
|---|---|---|
| 渡されるもの | 文字で書いた回路の記述 | 配置ずみの図形 |
| 別の工場、別の世代のプロセス | 使える(つくり直す) | そのままでは使えず、描き直しと再検証が必要 |
| 速さ、大きさ、消費電力 | 買った人のつくり方しだい | 前もってわかる |
| よくある例 | プロセッサなどのデジタル回路 | アナログ回路、高速インターフェース |
アナログ回路はたいていハードIPです。トランジスタ1つ1つの大きさや置き方に敏感で、ほかの人が並べ直すと正しく動くとはかぎらないからです。2つの中間にあたる「ファームIP」を分けて数える人もいます。
IPを使うには、どんな手順を踏む?
ステップ1:IPを選ぶ
機能、速さ、消費電力、面積を比べ、そのチップを頼む工場とプロセスの世代に合わせた版があるかを確かめます。1つのチップは1つのプロセスでしかつくれないからです。合わなければ、だれかが合う版をつくるのを待つか、工場を変えることになります。
ステップ2:ライセンスを結ぶ
どの製品に使えるか、どう払うかを契約で決めます。よくあるのは、最初にライセンス料を払い、チップが売れたら1個ごとにロイヤルティを払う形で、1回払いきりのこともあります。売り手は時間をかけて回路をつくり、検証していて、その費用を多くの会社に売って分け合うためです。話がまとまらなければ設計データは手に入らず、売るチップに組み込むこともできません。
ステップ3:設計データと資料を受け取る
受け取るのはIPそのものだけではありません。設計ソフト用のモデル、つなぎ方や設定のしかたを書いた資料、それにテスト用のプログラム一式がつくこともよくあります。こうしておけば、中の配線を1本1本理解しなくても「ブラックボックス」としてつなげます。資料を読み落として信号を1本つなぎ間違えたり、設定を1つ間違えたりすると、ずっとあとまで気づかないことがあります。
ステップ4:自分の設計に組み込み、つないだ状態で検証する
IPを自分の回路とつなぎ、チップ全体でシミュレーションしてチェックします(チップの検証とは?)。IPは単独で検証されたもので、つないでみると、クロック、電源、再起動のしかたが両側で同じとはかぎらないからです。見落とすと、1つずつ見ればどれも正しいのに、つなぐと動かない。テープアウトのあとで見つかれば、設計を直してフォトマスクをつくり直すことになります。
ステップ5:チップ全体といっしょにテープアウトする
IPはチップ全体の設計といっしょに工場へ渡ります。これがテープアウトです(テープアウトとは?)。IPは別のチップではなく、ほかの回路と同じマスク、同じウェーハに焼きつけられます。テープアウトの前に、最新で問題がすべて直った版かを確かめていなければ、できたチップ全部がその問題を抱えることになります。
自分でつくらず、買うのはなぜ?
- 時間:複雑な回路をゼロからつくって検証しきるには、何人もが長い時間をかけます。チップの発売が遅れれば、機会を逃すかもしれません。
- 検証ずみ:売り手が検証していて、実際にチップにして測ったものもあります。多くの会社が使えば、問題も早く見つかりやすくなります。
- 規格どおり:インターフェースは細かいところまで共通の規格に従う必要があり、つくってテストずみのものを買えば間違いが起きにくくなります。
- 人手を自分の強みに:どこでも同じ区画は買ってすませ、そのチップをほかと違うものにする区画に力を回せます。
買ってきたIPのリスクは?
- プロセスと結びついている:ハードIPは、描かれたプロセスの世代でしか使えません。工場や世代を変えたいときは、だれかが新しい版をつくるのを待つことになり、それがあるとはかぎりません。
- 問題が出たら待つしかない:中身はほかの人の設計で、細かいところが見えるとはかぎらず、自分で直せないことも多い。問題が出たら報告して、売り手が調べて直すのを待ちます。
- 払いつづける:ロイヤルティがあれば、売れば売るほど払う額も増えます。
半導体IPとSoC、チップレットの関係は?
チップが大きいほど、IPに頼ります。SoCはたくさんの区画を組み合わせたもので、買ってきたものもあれば、同じ会社が前に設計して検証したものを使い回すものもあります。サプライチェーンの中では、IPはいちばん上流にあり、チップ全体を設計するより一歩前にいます(半導体のサプライチェーンとは?)。
チップレットは、1つの大きなチップをいくつかに分けて別々につくり、あとで組み合わせるものです(ニュースの「先端パッケージ」とは?)。並べたチップレットどうしは同じ言葉で話す必要があり、違う人がつくったチップレットでもつなげるように、業界では共通のインターフェース規格づくりが進んでいます。そのインターフェースの回路も、買ってきたIPであることがあります。
fab24hrでは
ゲームに半導体IPは出てきませんし、チップを設計する人として遊ぶこともできません。メインストーリー「チップの一生」は、テープアウトのあとから始まります。「出勤」を押して「チップの一生」を選び、はじめて遊ぶと、まずプロローグ「テープアウト」。補聴器をつくる小さな会社がはじめて自分で設計したチップ「Glowmere」が、できあがってチェックを終え、半導体工場に渡ってフォトマスク一式になります。
Glowmereがどんな区画に分かれていて、どれを買ってきたかは、ゲームには書かれていません。本物の補聴器用チップには、マイクの音を数字に変えるアナログ回路や、チップ全体に拍子を送るクロックの回路が入っていることが多く、こうした回路は買ってきたIPであることがよくあります。第1章「12枚をどう分ける」はウェーハ投入の前日。あなたは開発ラインの開発インテグレーションエンジニアとして、この設計がはじめて形になったとき持ちこたえられるかを見ます。
ゲームの会社、チップ、人物は架空のものです。半導体IPとは何か、どう使うかは公開されている一般的な資料をもとに書いていて、実際のやり方は会社によって違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかゲームに半導体IPは出てきませんし、チップを設計する人として遊ぶこともできません。メインストーリー「チップの一生」をはじめて遊ぶと、まずプロローグ「テープアウト」。補聴器用チップ「Glowmere」の設計ができあがってチェックを終え、半導体工場に渡ってフォトマスク一式になります。Glowmereのどの回路が自社で描いたもので、どれが買ってきたものかは、ゲームには書かれていません。
fab24hrのメインストーリー「チップの一生」では、Glowmereの設計が手を離れたあと、開発ライン、量産工場、後工程工場の大勢の人が受け継ぎ、使う人の手元まで届けます。
第1章から:テープアウトのあとのGlowmereの最初のウェーハ先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「半導体IP(IPコア)とは? チップに「買ってきた回路」が入っている理由」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/silicon-ip/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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