チップはなぜ電気を使う? 何もしていないときの待機電流とリーク
チップが電気を使うのは、電気で操作する小さなスイッチがたくさん入っているからです。使い方は2種類あります。ひとつは動いているときで、スイッチが切り替わるたびに少しずつ電気を使います。もうひとつは何もしていないときで、スイッチはオフなのに、ごくわずかな電流がすり抜けてしまいます。これをリーク、またはリーク電流(漏れ電流)といいます。チップが電源は入っているのに何もしていないとき、電池から流れ出ていくそのわずかな電流を、待機電流と呼びます。「省電力のチップ」「低消費電力のチップ」とは、この両方をできるだけ小さくしたチップのことです。
チップが動いているとき、電気はどこに使われる?
チップのいちばん基本的な部品はトランジスタです。電気で操作する小さなスイッチで、オンが1、オフが0(どんな形かは「トランジスタとは?」へ)。
スイッチが切り替わるたびに、少しの電気をためては放します。小さなコップに水を満たしては捨てるようなものです。だからチップのする仕事が多いほど、切り替えが速いほど、使う電気も増えます。
とくに効くのが電圧です。この部分の電力は、だいたい電圧の2乗に比例します。電圧を8割に下げると、電力は6割ちょっとまで減ります。だから電気を節約する第一の手は、たいてい電圧を下げることです。
何もしていないのに、なぜ電気を使うの?
スイッチが、きっちり閉じきらないからです。
トランジスタはとても小さいので、ゲートが「オフ」と言っていても、入口から出口へ少しだけ電気がすり抜けます。ゲートの下のとても薄い絶縁膜を、電子がそのまま通り抜けることもあります。これがリークです。
きちんと閉まらない蛇口のようなものです。水を出しているあいだは、ぽたぽた垂れても気になりません。でも一晩じゅう垂れていれば、朝にはバケツがいっぱいです。
スイッチ1つのリークは無視できるほど小さくても、チップにはとても多くのスイッチがあり、スマートフォンのチップなら100億個以上です。合わせると、ばかになりません。しかも切り替えの電力は仕事をしているときだけですが、リークは電源が入っているかぎり、1秒も休まず続きます。
スイッチを小さくするほど、リークは厄介になります。2000年代ごろには、リークが大きくなりすぎて電圧を下げにくくなり、これがムーアの法則が減速した理由のひとつになりました(「ムーアの法則とは?」へ)。ニュースの「2ナノ」のように世代が進むたび、小さなスイッチをきっちり閉じる工夫が必要になっています。
速いチップほど、リークも多いのはなぜ?
スイッチがどれだけの電圧でオンになるかは、つくるときに決まります。このハードルを、しきい値電圧といいます。
しきい値が低いと、軽く押すだけで開くので速く動きますが、オフのときにきっちり閉じきれず、リークが多くなります。しきい値が高いと、きっちり閉じますが、開くのは遅くなります。だから「速さ」と「省電力」は、よく引き換えになります。
同じ設計図からつくったチップも、まったく同じにはなりません。少し速めにできたものは、たいていリークも多めです。そして、温度が高いほどリークは増えます。
待機電流とは?
チップ全体が、電源は入っているのに何もしていないとき、電源から流れ込む電流のことです。このときスイッチはほとんど切り替わらないので、残るのはおもにリークです。
| 動いているときの電力 | 何もしていないときのリーク | |
|---|---|---|
| いつ使われる | スイッチが切り替わるとき | 電源が入っているかぎり、毎秒 |
| 何で決まる | 仕事の量、切り替えの速さ、電圧の高さ | スイッチの閉じぐあい、スイッチの数、温度 |
補聴器や腕時計、センサーが待機電流を気にするのはなぜ?
共通点が2つあるからです。電池が小さいこと、そしてチップの全体や一部が待っている時間が長いことです。
多くのセンサーは、ほとんどの時間眠っていて、ときどき目を覚ましては測ってデータを送り、また眠ります。電子式の腕時計も、ほとんどの時間はただ時を刻んでいるだけです。「待つ」時間が「働く」時間よりずっと長いので、使う電気全体のうち、待機の分が大きくなりがちです。
補聴器は、音を聞き取りやすくするための小さな機器です。つけているあいだは、ずっと音を拾って処理しています。でもチップの中のすべての部分が、いつも忙しいわけではありません。手のあいている部分も、リークは続けています。電池はたいてい小さな空気亜鉛電池1個で、数日から1〜2週間ほどもちます。電池の大きさや機種、1日に何時間つけるかで変わります。
おおまかに言えば、電池のもちは「電池にたまっている電気の量」を「平均して使い続けている電気の量」で割ったものです。平均で1割多く使えば、だいたい1割早くなくなります。チップのリークが少し増えるたびに、電池のもちは少し短くなります。
チップの設計では、どうやって電気を節約する?
やさしく言うと、よく使われるのは次のような方法です。
- 使わない部分を止める:チップには、メトロノームのような信号があり、クロックと呼ばれます。スイッチはその拍子に合わせて切り替わります。使わないブロックの拍子を止めれば、切り替えの電力が浮きます。ただし電源は入ったままなので、リークは続きます。
- 使わないブロックの電源ごと切る:電源そのものを切れば、リークも止まります。そのかわり、使うときにまた立ち上げるのに少し時間がかかり、切る前には覚えておくべきことを保存しておく必要があります。
- 速いスイッチは、ここぞという所だけに:どうしても速さが要る所には、しきい値の低いスイッチを使い、急がない所には、しきい値が高くきっちり閉じるスイッチを使います。
- 電圧はできるだけ低く、ほとんどの時間は眠らせる:全速が要らないときは電圧を下げて少しゆっくり動かし、仕事があるときだけ起こして、終わったらすぐ眠らせます。
半導体工場と後工程工場は、リークをどう見張る?
スイッチがきっちり閉じるかどうかは、つくり方でも決まります。ゲートの下の絶縁膜をどれだけの厚さに成長させるか(拡散炉で成長させるものもあります)、シリコンにどれだけの原子を加えるか(よく使われるのはイオン注入)で、しきい値もリークも変わります。少しずれれば、チップが少し速くなり、リークも少し増えることがあります。だからウェーハが工場を出る前に、半導体工場はWATを行い、TEGで電流やリークを測って、そのロットがずれていないかを確かめます。
ウェーハが届く後工程の工場では、チップが1個残らず試験を受けます(くわしくは「チップはどうテストする?」へ)。問題用紙にあたるのがテストプログラムで、その1問が待機電流です。チップを何もしない状態にして、どれだけ電流が流れ込むかを測り、上限を超えたらはじいて、別のビンに分けます。
上限をどこに引くかは、引き換えの問題です。厳しすぎると良品まではじかれ、歩留まりが落ちます。緩すぎると、リークの多すぎるチップが使う人の手に渡り、電池が長くもちません。
テストで確かめるのは「今どれだけ漏れるか」です。しばらく使ううちに壊れないかは、また別の話で、「バーンインとは?」で書いています。
fab24hrでは
fab24hrのメインストーリー「チップの一生」は、架空の補聴器チップ「Glowmere」の物語です。ボタン電池1つで動くので、みんながいちばん恐れているのは、待機中のリークです。
第10章「待機電流」では、あなたは後工程工場のテストエンジニアです。量産の最初のウェーハが届いたばかりで、ビンでいちばん多い不良は「待機電流が高すぎる」。ウェーハの外周のリングに集まっていて、ちょうど上限のあたりにかかっています。顧客のプロダクトエンジニアのLeoは、自分たちの広告は「電池1個で、何日も長くもつ」の一文だと言います。上限を厳しくするか、緩めるか、それとも開発ラインのFFコーナーの数値で決めるか(第1章でFFを流さないことにした場合は、この選択肢はありません)は、あなたが決め、テストプログラムに書き込みます。
終章は第13章「父の手に」です。あなたはシェンさんの父。古い補聴器は電気をよく食い、おととい替えた電池が、夕方にはまたピッ、ピッと鳴りました。娘が新しい1台を持って帰ってきて言います。「すごく省エネなの。同じ電池で、何日も長くもつんだよ。」夜10時半、以前なら古い補聴器はとっくに静かになっていた時間に、台所で話す妻の声が、居間まで聞こえます。第10章で上限を緩めていると、3か月後、電池のもちが約束より何日も短い補聴器が出て、返品されてきます。
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「後工程工場」を押し、左右にスワイプしてテストエンジニアにすると、朝のシフトが第10章のシフトです。午後のシフトでは、待機電流が上限には収まっているのに、まわりより一段高いチップが3個あり、別にはじくかどうかも決めます。
ゲームの会社・チップ・人物・数字は架空です。「何日も長くもつ」は物語の中のせりふで、実在のどの製品の数字でもありません。リークと待機電流については、公開されている一般的な資料をもとに書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかメインストーリー「チップの一生」の第10章「待機電流」では、後工程工場のテストエンジニアとして、ビンからいちばん多い不良が「待機電流が高すぎる」だと読み取り、上限をどこに引くかを決めてテストプログラムに書き込みます。第13章では、シェンさんの父が新しい補聴器をつけます。娘によれば、同じ電池で何日も長くもつそうです。
fab24hrでは、待機電流の上限を厳しくすれば歩留まりが落ち、緩めれば電池が長くもたない補聴器が出てきます。上限をどこに引くかは、あなたが決めます。
第10章「待機電流」を遊び、上限をどこに引くか決める先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
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