クリーンルームの空気は、どこから来るのか
クリーンルームの空気の大部分は、中をぐるぐる回り続けている同じ空気です。天井一面のファンフィルタユニット(FFU)が空気をろ過して吹き下ろし、空気は床の穴から下へ抜け、天井へ戻って、もう一度ろ過されて吹き下ろされます。外から入ってくるのはほんの一部です。装置はいつも排気していて、出ていった分を外調機(外気処理空調機、MAU)が外から補います。ろ過し、除湿し、温度を整え、さらに少し多めに入れて、クリーンルームの圧力を外より高く保ちます。空気を冷やして乾かす冷水はチラーがつくり、熱は最後に屋上の冷却塔から逃がします。この仕組み全体がクリーンルームの空調(HVAC)で、ファシリティの担当です。
空気はどう流れる? 一歩ずつ追ってみる
家のエアコンは涼しくすればいいだけです。クリーンルームの空調は、きれいさ、温度、湿度、圧力を同時に保ち、一年中止まりません。
ステップ1:外の空気は、まず外調機へ
- 何をする:外の空気を取り込み、何段かのフィルターを通してから、冷水で露点より低く冷やします(空気を露点まで冷やすと、中の水蒸気が水滴になります)。水滴を流し出せば、空気は乾きます。冷えすぎたら温め直し、乾きすぎたら少し加湿します。
- なぜ:外の空気にはほこりがあり、暑くなったり寒くなったり、乾いたり湿ったりします。クリーンルームの湿気は主にこの空気と一緒に入ってくるので、いちばん難しい除湿を、ここで先にすませます。
- しないとどうなる:湿った空気がそのまま入り、クリーンルームの湿度が天気につられて動きます。雨や霧のときにいちばんはっきり出ます。
ステップ2:クリーンルームの大きな循環に加わる
- 何をする:処理した空気を、クリーンルームの中を回り続ける大きな循環に送り込み、床下から戻ってきた空気と混ぜます。この循環の風量は、外から補う量よりずっと大きいのです。
- なぜ:空気をきれいにするのは、同じ空気を何度もろ過することで、新しい空気に入れ替え続けることではありません。外の空気は除湿と温度調整がいちばん大変なので、必要な分だけ入れます。
- しないとどうなる:全部を外の空気にしたら、除湿と温度調整の量は手に負えないほどになります。それでなくても、空調は半導体工場で電気を多く使うところです(「半導体工場はなぜ大量の電力を使うのか」)。
ステップ3:天井のファンフィルタユニット(FFU)が吹き下ろす
- 何をする:ファンフィルタユニットは、小さなファンと目のとても細かいフィルターをひとつにしたもので、天井の格子のひと枡に入っています。クリーンルームの天井には、これが数百台から数千台並んでいます。空気はフィルターを通って、ゆっくりした、むらのない風になって下へ流れ(秒速数十センチほどで、歩くより遅い)、床の穴から戻っていきます。
- なぜ:人や装置からは、いつもパーティクルが出ています。上から下への風がそれを床のほうへ運び、ウェーハに落ちないようにします。ひと枡に1台なので、1台が壊れても、まわりの台は吹き続けます。
- しないとどうなる:1台が止まると、その下のひと枡の風が弱くなります。新しく付けた1台で、枠と天井のあいだにすき間があると、ろ過されていない空気がそこから漏れて落ちてきます。だから付けたあとに「リークスキャン」をします。プローブをフィルターと枠に沿わせて、ゆっくり一通りなぞります。
フィルターとクリーンルームのクラスについては「クリーンルームはどれくらいきれい? クラス100、ISO 5の数え方」へ。
ステップ4:圧力を外より少し高く(陽圧)
- 何をする:入れる空気を、排気する空気より少しだけ多くすると、クリーンルームの圧力は外より高くなります。これを陽圧といいます。高いといっても大気圧の1万分の1くらいで、きれいな場所ほど高くします。
- なぜ:扉を開けると空気は中から外へ流れるので、外のほこりはついて入りにくくなります。入口の多くが、同時には開かない2枚の扉になっているのも(エアシャワーも同じ)、圧力差が一気になくならないようにするためです。
- しないとどうなる:圧力差がなくなると、扉を開けるたび、壁のすき間から漏れるたびに、外のほこりが空気と一緒に入ってきます。逆に、毒性のあるガスを漏らしてはいけないガスキャビネットは、わざとまわりより低い圧力にしてあります(「半導体工場ではどんなガスを使う?」)。
ステップ5:温度と湿度をいつも一定に
- 何をする:センサーがいつも測り、データを中央監視室へ送ります。循環の中では、水滴がつかない温度に保ったコイルで温度を細かく合わせるのがよくあるやり方で、除湿と加湿は外調機にまかせます。
- なぜ:いちばん気にするのはリソグラフィのエリアです。湿度が変わると、レジストのくっつき方や、レジストによっては光が当たったあとの反応の速さが変わります。露光では上下の層をナノメートル単位で合わせるのに、ものは温まるとほんの少しふくらむので、温度も動かせません。乾きすぎると静電気がたまりやすく、湿りすぎると金属がさびやすくなります。
- しないとどうなる:同じ条件でも、今日と明日で出来上がりが変わってしまいます。
リソグラフィとレジストについては「リソグラフィのエリアは、なぜ黄色い照明なのか」「フォトレジストとは?」、静電気は「静電気放電(ESD)とは?」へ。
ステップ6:装置はいつも排気している。出た分だけ補う
- 何をする:どの装置にも排気ダクトがつながっていて、中の空気をいつも吸い出しています。排気は中身によって分けて流し、よくある分け方は、一般排気、酸の排気、アルカリの排気、有機溶剤の排気です。毒性や燃えやすさのあるガスは、まず装置のそばの排ガス処理を通します。酸とアルカリの排気はさらに水で洗い(スクラバー)、溶剤の排気はよく、吸着して濃縮してから燃やし、そのあとで外へ出します。
- なぜ:薬品の蒸気を装置の中に残すことも、クリーンルームに漏らすこともできません。分けて流すのは、酸とアルカリが出会うと反応して塩の細かい粉ができ、ダクトにたまるからで、処理の方法もそれぞれ違います。
- しないとどうなる:排気が足りないと、蒸気が装置の中に残ります。引きすぎると、同じ排気メインダクトにつながったほかの装置の排気が減り、クリーンルームの空気も減って、そのぶん外調機が多く補うことになります。スクラバーで使った水も処理が必要です(「半導体工場で使った水は、どこへ行く?」)。
ステップ7:チラーと冷却塔が熱を運び出す
- 何をする:外調機と循環の中のコイルに流れているのは、どちらもチラーがつくった冷水です。冷水は空気の熱を受け取ってチラーへ戻り、チラーはその熱を別の水の流れに渡して、屋上の冷却塔へ送ります。冷却塔では温かい水を上から散らし、ファンで空気を上へ吸い上げ、水の一部が蒸発して熱を持っていきます。
- なぜ:装置が使った電気は、最後にはほとんどが熱になります。熱はいつも出続けるので、いつも運び出さなければなりません。
- しないとどうなる:冷却塔のファンが止まると、戻る水が十分に冷えず、チラーの中の圧力が上がって、チラーは自分を守るために止まります。冷水が十分に冷たくないと、外調機は空気を除湿できません。だからチラーは、たいてい1台多く予備を用意しておきます。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプしてファシリティエンジニアを選びます。名前の下の色のタイルの列で空調のタイル(「ファシリティ・空調」と出ます)を押すと、空調課エンジニアになります。4つのシフトのどれになるかは、開いた時刻で決まります。
- 深夜シフト「霧の夜」:あなたは家でオンコールです。外は霧で、リソグラフィのエリアの湿度がじわじわ上がっています。夜間の設定どおり冷水を少し高めの温度にしていて、外調機が除湿しきれないのです。中央監視室に昼の温度へ戻してもらうか、夜間の設定のまま見張るかは、あなたが決めます。4時半にもう1本電話があり(出なくてもかまいません)、天井のファンフィルタユニットが1台止まっています。
- 朝シフト「1台交換」:クリーンルームの中でその1台を交換します。リークスキャンは省けますが、省くとどうなるかは、続けて昼シフトに入るとわかります。そのあと7つの夜の湿度を見て、夜間の設定を外の露点に合わせるように変えるかを決めます。
- 昼シフト「新しい装置の排気」:新しい装置が搬入口から入ってきます。2枚の扉が開くときの圧力差を見て、続いて2本の排気をつなぎます。装置メーカーはもっと大きく開けたがります。接続表どおりにするか、風量を測るかは、あなたしだいです。
- 夜シフト「屋上のファン1台」:チラーの2号機が止まり、予備の3号機が自動で動き出します。原因は屋上の冷却塔のファン1台で、ベルトを見るステップも省けます。
ゲームに出てくる工場・人物・装置の番号・時刻は架空で、温度・湿度・圧力差の数字も書いていません。空気がどう流れるか、なぜそうするのかは、公開されている一般的な資料をもとに書いていて、特定の会社のやり方ではありません。ほかの業界用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うか空調課エンジニア(量産工場 › ファシリティ › 空調)を遊ぶと、深夜は外が霧でリソグラフィのエリアの湿度がじわじわ上がり、朝は天井のファンフィルタユニットを1台交換し、昼は搬入口の圧力差と新しい装置の排気を見て、夜はチラーが1台止まります。
fab24hrで空調課エンジニアの一日を。空気は見えないから、測る。
空調課エンジニアで遊び、クリーンルームの空気を守る先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「クリーンルームの空気は、どこから来るのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/fab-hvac/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
ほかの記事
半導体工場で使った水は、どこへ行く?
ファブとは? 半導体の「ファブ」と「ファブに入る」の意味
クリーンルームはどれくらいきれい? クラス100、ISO 5の数え方
クリーンルームでは、なぜ全身を覆う防塵服を着るのか
このサイトのほかのページ
- fab24hrとは?:2つの遊び方、4つのシフト、よくある質問、参考にした資料
- チップの一生:1個のチップの一生:テープアウト、試作、量産、ウェーハテスト、パッケージ、出荷、それぞれの段階でしていること
- 半導体工場エンジニアの一日:PE・EE・PIE・製造部の役割分担と、一日のタイムライン
- 半導体工場には誰がいる:技術員、製造部、プロセス、装置、ファシリティ、インテグレーション、品質保証、生産管理、マスク、開発、課長、メーカー、後工程のテストと組立:それぞれの一日
- 半導体工場の業界用語を、やさしく解説:MO、ホールド、Qタイム、OCAPなどの業界用語を、ひとことでやさしく
- 半導体入門講座:チップの一生をたどる:半導体入門講座:チップの一生をたどる図解ノート、スライド、必読記事、3D装置、考える問い。独学にも授業にも
- 半導体工場の装置を、分解して見る:31種類の半導体製造装置(エッチング、露光装置、CMP、拡散炉、後工程…)が何をしているか。どれも3Dモデルで分解して見られます
- 授業でfab24hrを遊ぶ:半導体の授業・教材:20/40分の流れ、1章1コマと1エリア1コマ(3D装置・ゲーム・記事)、話し合いのテーマ、ワークシート、よくある質問
- 紹介とメディア素材:プロモーション動画、ゲーム画面、紹介文と基本情報