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チップの基本約8分

裏面電源供給とは? チップの電源配線を、なぜウェーハの裏側に移すのか

裏面電源供給(バックサイドパワーデリバリー、BSPDNとも)は、チップの新しいつくり方です。トランジスタに電気を送る電源配線を、ウェーハの表から裏へ移し、表はおもに信号を運ぶ配線に使います。裏に移すと、電源の道を太く、短くでき、表にも余裕ができます。そのかわり、ウェーハを裏返して裏からごく薄く削らなければならず、つくるのがずっと難しくなります。使い始めたのは最先端の数世代だけで、やり方もメーカーごとに少しずつ違います。この記事は一般的なしくみだけを書き、数字はおおよその大きさにとどめます。

いまのチップでは、電気はどうやってトランジスタに届く?

トランジスタは電気で切り替える小さなスイッチで、シリコンの表側につくります(「トランジスタとは?」)。スイッチの上には金属の配線が1層ずつ重なっていて、最先端では10層以上になります。ビルにたとえると、1階はスイッチでぎっしり、その上の階はどれも廊下です(「チップの中の配線はどうつくる?」)。

配線には2つの仕事があります。

  • 信号を運ぶ:あるスイッチの結果を、ほかのスイッチへ届けます。結果は1本の線の電圧の高い・低いで、高いと1、低いと0です。
  • 電気を送る:スイッチの組はどれも、電源(電圧の高い線)とグラウンド(電圧の低い線)につながっていて、出力をどちらかにつなぎます(「CMOSとは?」)。

いまは、この2種類の配線がどちらも表にひしめいています。電気はいちばん上、パッケージにつながる面から入り(「フリップチップとは?」)、1層ずつ下りて、いちばん下のいちばん細い層まで来て、やっとトランジスタに届きます。

電源配線が表にあると、何が困る?

その1:下りるほど電圧が下がる

配線には抵抗があり、細く長いほど抵抗は大きくなります。抵抗に電流が流れると電圧が少し下がり、その量はおおよそ「電流×抵抗」です。これをIRドロップ(電圧降下)といいます。

ビルの水道にたとえられます。屋上のタンクから水を下へ送ると、管が細く長いほど、最後の部屋の水は弱くなります。電気も同じで、スイッチに着くころには、電圧が電源より少し低くなっています。

電圧が足りないと、スイッチの切り替えが遅くなります。下がりすぎると、信号が次のクロックまでに届かず、計算をまちがえることもあります。そこで設計では、下がってよい電圧を電源電圧の1割程度までに抑えることがよくあります。それで足りなければ電源電圧を上げるしかなく、消費電力が増えます。

その2:信号の配線が押し出される

電圧を下げないために、電源配線は太く、数も多くしなければならず、どの層でも場所をかなり取ります。いちばん下の層はもともといちばん混んでいるので、信号の配線は遠回りするか、層を増やすことになります。

スイッチが小さく、密になるほど(「ムーアの法則とは?」)、配線は細くなり、この2つの問題は深刻になります。そこでエンジニアは考えました。電源配線を反対側へ移してしまえば、信号と場所を取り合わずにすむのではないか。

裏面電源供給はどうつくる? 一歩ずつ

一般的な説明では、おおよそ5つのステップです。

ステップ1:表はいつもどおり、トランジスタと信号の配線をつくる

表にトランジスタをつくり、その上に配線を重ねるのは、いまと同じです。違うのは、配線のほとんどを信号用にすること。トランジスタの横に、あとで裏からつなぐ場所を用意しておくやり方もあります。トランジスタを先につくるのは、とても高温の工程があって、金属の配線が耐えられないからです(「トランジスタはどうやってつくる?」)。

ステップ2:裏返して、キャリアウェーハに貼り合わせる

できあがったウェーハを表を下にして裏返し、もう1枚のウェーハに貼り合わせます。これをキャリアウェーハ(支持ウェーハ)といいます。回路はなく、支えるのが役目です。次のステップで、もとのウェーハを自分では形を保てないほど薄く削るからです。支えがないと、薄くなったシリコンは持ち上げただけで割れ、表の配線を守るものもありません。貼り合わせには、チップを積み重ねるのに近い技術を使います(「ニュースの「先端パッケージ」とは?」)。

ステップ3:もとのウェーハを、裏からごく薄く削る

ウェーハは、もともと1ミリ足らずの厚さです。これを裏から、シリコンのほとんどを取り除きます。まず砥石で大まかに削り、そのあとCMPとエッチングで少しずつ取っていき(「CMPとは?」)、残りは1マイクロメートル前後、やり方によってはもっと薄くなります(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)。トランジスタの下に削れにくい層をあらかじめ埋めておき、そこに当たったら止める方法がよく使われます。

ここまで薄くするのは、次のステップで掘る穴の幅が数十〜数百ナノメートルしかないからです。細い穴はあまり深く掘れないので、シリコンが厚いと、穴がトランジスタまで届きません。パッケージに入れる前にもウェーハを裏から削り、紙1枚くらいにすることがよくありますが(「パッケージングとは?」)、ここではさらに数十倍以上薄くします。しかも直径30センチのウェーハ全体を、同じ厚さに削らなければなりません。削りすぎればトランジスタを傷め、足りなければ穴がつながりません。

ステップ4:裏から穴を掘って、トランジスタにつなぐ

薄くなった裏側に、リソグラフィでパターンを焼き付け、エッチングでとても細い穴を掘って金属を埋め、残った薄いシリコンを突き抜けて表とつなぎます。シリコンを突き抜けるこの穴は、先端パッケージでチップを積むときのシリコン貫通電極(TSV)と同じ考え方で、ずっと細いものです。

やり方の違いは、おもに穴をどこにつなぐかにあります。表のいちばん下の層の電源配線につなぐもの、トランジスタのすぐ横に埋めた電源配線につなぐもの、トランジスタの端に直接つなぐものがあります。直接になるほど道は短くなり、つくるのも難しくなります。

穴は、表の小さな点にぴったり合わせなければなりません。ところがステップ2で貼り合わせるとき、ウェーハがほんのわずかに引き伸ばされてゆがむので、裏のパターンを合わせるのがいっそう難しくなります(これを重ね合わせといいます。「重ね合わせ(オーバーレイ)とは?」)。少しずれると、つながらなかったり、つながってはいけないところにつながったりします。

ステップ5:裏に、太くて短い電源配線を敷く

裏に、電気を送るためだけの金属配線を何層か重ね、いちばん外に接点をつくってパッケージにつなぎます。裏には場所を取り合う信号の配線がないので、線を幅広く、厚くでき、抵抗が小さくなります。表と同じくらい細いのなら、移す意味がありません。電気はパッケージから入って、数層上がるだけでトランジスタに届き、表の10層以上の細い配線は電源を運ばなくてよくなります。

裏に移すと、何がよくなる?

  • 電圧が下がりにくい:電源の道が太く短くなり、スイッチに届く電圧が安定します。
  • 表を信号に使える:電源配線がなくなったぶん、信号の配線の遠回りが減ります。
  • もっと密に並べられる:スイッチの列ごとに、電源配線のための1本分の場所を空けていましたが、それがいらなくなります。同じスイッチの列なら面積を1〜2割ほど減らせると、研究では見積もられています。

では、何が難しい?

  • 極端に薄く、ぴったり合わせる:ウェーハ全体を1マイクロメートル前後かそれ以下まで均一に削り、そのうえ裏の穴を表の点に合わせ、貼り合わせでできたわずかなゆがみも補正しなければなりません。
  • 熱を逃がしにくい:これまでトランジスタは厚いシリコンのかたまりにくっついていて、熱はシリコンから逃げていました。いまは片側に電源配線、反対側に10層以上の配線があり、熱は、配線のあいだの熱を通しにくい絶縁膜を抜けなければ外へ出られません。
  • 故障を探しにくい:チップのどこが壊れたかを探すとき、裏からシリコン越しに赤外線でトランジスタを見ることがよくあります(「故障解析(不良解析)とは?」)。裏が金属でおおわれると中が見えず、別の方法が必要になります。
  • 工程が増え、高くつく:貼り合わせ、薄く削る工程、裏の配線が増え、どれも失敗すれば歩留まりに響きます。

だから裏面電源供給を使い始めたのは、最新の数世代だけです。新しいやり方が研究から量産になるまでには、たいてい何年もかかります(「新しい技術は、論文から量産まで何年かかる?」)。いまもほとんどのチップは、電源配線が表にあります。何世代か前のつくり方では配線がそこまで細くないので、それで足りるのです(「ニュースの「成熟プロセス」とは?」)。

fab24hrでは

ゲームにこの場面は出てきません。ウェーハを裏返してキャリアウェーハに貼ることも、裏の電源配線もありません。メインストーリー「チップの一生」の「Glowmere」は補聴器用のチップで、成熟した世代のプロセスでつくられていて、最新の数世代ではありません。

いちばん近いのは開発ラインです。「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「開発ライン」を押し、左右にスワイプして開発プロセスエンジニアへ。名前の下で「CMP」を押すと、CMPの開発プロセスエンジニアです(Betaの印つき)。金属を埋めた新しいコンタクトを平らに磨く仕事で、開発ライン全体でCMP-R1は1台だけです。コンタクトは、配線が下へ向かってトランジスタにつながる最後の区間です。朝シフトでは、新しいコンタクトの並び方が前の製品と違うのに、手元のレシピは前の製品向けにブランケットウェーハで出したものです。まず1枚だけ磨くか、3枚いっしょに磨くか。後工程工場のダイシング装置の説明にも、ウェーハをまず裏から薄く削るとありますが、それはパッケージ前の話で、裏面電源供給よりずっと厚いままです。

ゲームに出てくる会社・人物・装置・数字は架空です。裏面電源供給は、公開されている一般的な資料をもとに書いていて、どこか1社のやり方を表すものではありません。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。

ゲームのどこで出会うかゲームに裏面電源供給は出てきません。いちばん近いのは開発ラインのCMPの開発プロセスエンジニアで、金属を埋めた新しいコンタクトを平らに磨きます。開発ライン全体でCMP-R1は1台だけです。後工程工場のダイシング装置の説明にも、ウェーハをまず裏から薄く削るとあります。

fab24hrに裏面電源供給はありません。開発ラインでは新しいコンタクトが一工程ずつつくられ、新しいつくり方はどれも、まず開発ラインで試してから量産工場に渡されます。

CMPの開発プロセスエンジニアで、新しいコンタクトを平らに磨く

先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。

この記事を引用する「裏面電源供給とは? チップの電源配線を、なぜウェーハの裏側に移すのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/backside-power/
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