OPC(光近接効果補正)とは? フォトマスクの図は、なぜチップの図と違うのか
OPCは光近接効果補正(optical proximity correction)の略です。フォトマスクをつくる前に、マスクの図をわざと設計図とは違う形に変えておきます。そうすると、光を当ててウェーハに焼き付いた図が、かえって設計に近くなります。理由は、チップの線が露光に使う光の波長より細く、光が図を「丸めて」しまうからです。OPCは、その丸まり方を先に計算に入れておく技術です。
フォトマスクの図がどうやってウェーハに焼き付くかは「フォトリソグラフィとは?」、マスクそのものは「フォトマスクとは?」へ。この記事では、マスクの図をなぜ先に変えておくのか、だけを説明します。
設計図どおりにマスクを描けばいいのでは?
それではうまくいきません。いまよく使われている露光装置の深紫外線は、波長が193ナノメートル。ところがチップでいちばん細い線は数十ナノメートルしかなく、光の波長より細いのです。
光はとても細いすき間を通ると、広がります。これを回折といいます(「極端紫外線(EUV)とは?」で説明しています)。すき間が細いほど、大きく広がります。露光装置のレンズは、広がった光の一部しか集められず、いちばん大きく広がった光は取りこぼします。そして図のいちばん細かいところの情報は、まさにその光が運んでいます。
だから焼き付いた図は、細かい絵を太いペンでなぞったようになります。だいたいの形は残りますが、とがったところは丸く、細いところはぼやけます。
焼き付くと、どう崩れるのか
- 角が丸くなる:設計図の直角が、丸い角になって焼き付きます。
- 線の先が短くなる:細い線の先が、設計より短く焼き付きます。先の両側の角が丸くなると、先が引っ込むのです。
- 混み合った線と孤立した線で変わる:同じ太さで描いた線でも、まわりにほかの線がたくさんあるときと、ぽつんと1本だけのときでは、焼き付く線幅が変わります。
3つ目が「近接」という言葉の由来です。1本の線がどう焼き付くかは、その線だけでは決まらず、近くに何があるかで変わります。まわりの図から広がった光が届いて、重なるからです。これを光近接効果といい、OPCが補正するのはこれです。
補正しないとどうなるか。線の先が短くなりすぎると、つながるはずの接続先に届かないことがあり、そうなると回路が切れます。同じ種類の線が場所によって太かったり細かったりすると、同じであるはずのスイッチが、速いものと遅いものに分かれてしまうことがあります。
OPCは、どうやって「わざと変えて」描くのか
弓を引く人が、右から風が吹くと知っていれば少し左をねらうのと同じです。光がどうぼかすかがわかっていれば、マスクを逆向きに直しておけばいい。よくある直し方は次のとおりです。
- 角に小さな四角を足す:外に出っぱった角に、外側から小さな四角を貼り足すと、丸まりが小さくなります(少しは丸くなります)。
- 線の先を長くする:線の先を少し長く、少し太く、小さなハンマーのような形に描いておくと、引っ込んだあとでちょうどの位置に届きます。
- まわりに合わせて線幅を変える:孤立した線と混み合った線を、マスク上では違う太さで描き、焼き付いたときにそろうようにします。
- 焼き付かない細い線をそばに置く:ぽつんとした図のそばに、それ自体は焼き付かないほど細い線を何本か置きます。光のふるまいを、混み合った図の中にいるのと同じにするためです。太く描きすぎると、その線まで焼き付いてしまうので、きちんと計算します。
OPCは、一歩ずつどう進めるのか
ステップ1:設計図を受け取り、目標にする
チップの設計ができてテープアウトすると、各層の図が、マスクを準備する側に渡ります。この図が「最後にウェーハがこうなってほしい形」で、このあとのどのステップも、これと比べます。この図をそのままマスクにすると、前の節のとおり、角が丸く、線が短く、混み具合で太さのそろわない図が焼き付きます。
ステップ2:「当てたらどう焼き付くか」をコンピュータで計算する
コンピュータが図をマスクとみなし、光が通り、レンズを抜け、レジストに当たり、現像されたあとに残る図を計算します。本物のマスクをつくってウェーハに焼き付けて測るのは、高くて時間がかかります。コンピュータなら、先に層全体をひととおり計算できます。計算のルール(モデル)は、ウェーハにたくさんのテスト用の図を焼き付けて電子顕微鏡で測り、本物と合うように前もって調整しておきます。モデルが合っていなければ、いくら直しても、正しく直せません。
ステップ3:目標と比べ、違うところのマスクの図を直す
すべての辺を短い区間にたくさん切り分け、1区間ずつ比べます。焼き付いた形が内側に引っ込んでいれば、マスクのその区間を少し外へ押し出し、外にふくらんでいれば少し内へ引きます。角の四角や線の先のハンマーも、このステップで加えます。そばの細い線は、このステップか、それより前に置きます。直さなければ、角が丸まり、線の先が縮んで、接続先に届かないことがあります。
ステップ4:もう一度計算し、十分近づくまで繰り返す
直した図をもう一度計算し、各区間が目標からまだどれだけずれているかを見ます。ある区間を押し出すと、となりの区間の焼き付き方も変わるので、何回も行き来して、すべての区間が許される範囲に入るまで続けます。1回直しただけだと、直しすぎたところと、まだ足りないところが残りがちです。
ステップ5:チェックする。2本の線がくっつかないか
層全体をもう一度計算します。いちばんよいフォーカスと光の量だけでなく、少しずれたときも計算し、近すぎてくっついてしまう線(ショート)、細くなりすぎて切れそうな線、補助の細い線がそれ自体で焼き付いてしまうところを探します。露光装置は毎日少しずつずれるので、理想の条件でしか合わない図は、量産で問題を起こすかもしれません。マスクができてから気づくと、つくり直すしかありません。
ステップ6:マスクショップに渡す
チェックが済んだ図を、マスクをつくる装置が読めるファイルにして、マスクショップに送ります。小さな四角や短い区間がたくさん増えた図は、もとの図よりずっとデータが大きく、マスクをつくる時間も費用も増えます。マスクができあがったら、その図はもう描き直せません。直すなら、新しくつくり直すことになります。
なぜ、そんなにたくさんのコンピュータが要るのか
量が多すぎるからです。マスク1層の図形は数えきれないほどあり、すべての辺を何区間にも切って、区間ごとに光を計算します。1区間を押し出すととなりにも響くので、何回も繰り返します。最後に、いくつものフォーカスと光の量でもう一度チェックします。チップは何十層もあり、いちばん細い層はどれもこれが必要なので、たくさんのコンピュータで手分けして計算します。
はじめのころは、表を引くようなやり方でした。線の太さがこれだけ、となりの空きがこれだけなら、これだけ足す。図が複雑になると表では書ききれず、1区間ずつシミュレーションで計算するやり方に変わりました。線が光の波長より細くなり始めた1990年代の終わりごろ、チップ全体のOPCが使われ始めました。
OPCだけで足りるのか
足りません。露光の側にも手があります。レンズとウェーハのあいだに水を入れる(液浸露光)、混みすぎた図を2〜3回に分けて焼き付ける(マルチパターニング)、波長がずっと短い極端紫外線に替える(「フォトリソグラフィとは?」「極端紫外線(EUV)とは?」)。どれもOPCといっしょに使うことが多く、極端紫外線でもOPCは必要です。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「開発ライン」を押し、左右にスワイプして開発プロセスエンジニアへ。名前の下で「リソグラフィ」を押すと、リソグラフィの開発プロセスエンジニアです(Betaの印つき)。4つのシフトは開いた時刻で決まり、昼シフト「2つのウィンドウ」がこの記事の話です。コンタクトの層の次のマスクが、来週確定します。前回の露光条件探しでは、ぎっしり並んだホールしか測っていませんでしたが、チップの別の場所には、孤立したホールもあります。2種類をいっしょに測ると、孤立したホールは使える範囲が狭く、両方ともちょうどよい範囲は小さな一角しか残りません。16:00のマスク会議で、リソグラフィとしての意見を伝えます。孤立したホールのそばに補助パターンを入れるなら、マスクのデータをもう一度処理するので、マスクは2日遅れます。入れないなら、マスクは予定どおりの日で、量産工場が毎シフトモニターウェーハを1枚多く測って、フォーカスを見張ります。
マスクの補正のうち、ゲームで決めるのは補助パターンだけです。「補助パターン/アシストフィーチャ」の用語カードの「もう少し詳しく」に、それが光近接効果補正の仲間だと書いてあります。1区間ずつ計算して図を直すところは出てきません。メインストーリー「チップの一生」のプロローグ「テープアウト」では、「Glowmere」の設計が工場に渡り、一式のマスクになります。ゲームに出てくる会社・人物・装置・数字は架空です。OPCが何をしているのか、なぜ必要なのかは、公開されている一般的な資料をもとに書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかリソグラフィの開発プロセスエンジニア(開発ライン › 開発プロセス › リソグラフィ)の昼シフト「2つのウィンドウ」。次のマスクは来週確定です。孤立したホールは密なホールより焼き付けにくく、16:00のマスク会議で、孤立したホールのそばに補助パターンを入れるかどうかを伝えます。
fab24hrでは、マスクが確定する前に、開発ラインのリソグラフィエンジニアが孤立したホールのために意見を言います。補助パターンを入れるか、マスクを予定どおりの日にするか。
リソグラフィの開発プロセスエンジニアで、マスクに補助パターンを入れるか決める先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「OPC(光近接効果補正)とは? フォトマスクの図は、なぜチップの図と違うのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/what-is-opc/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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