193ナノメートルの光で、なぜ数十ナノメートルの線が焼けるのか? 液浸露光とマルチパターニング
193ナノメートルの深紫外線で数十ナノメートルの線が焼けるのは、波長のほかに4つの工夫があるからです。レンズがどれだけ斜めの光まで取り込めるか(開口数)、レンズとウェーハのあいだに水を入れること(液浸露光)、密すぎる層を2回、3回に分けて焼くこと(マルチパターニング)、そしてフォトマスクの図をあらかじめ直しておくことです。液浸露光は英語でimmersion lithography、193ナノメートルのArFエキシマレーザーと組み合わせるので「ArF液浸」とも呼ばれます。マルチパターニングのうち、2回に分けるものはダブルパターニングといいます。
リソグラフィの基本の流れは「フォトリソグラフィとは?」、マスクの図の直し方は「OPC(光近接効果補正)とは?」へ。この記事では残りの3つを扱います。
光のほうが線より太いのに、なぜ焼けるのか
光はフォトマスクのとても細いすき間を通ると、横に広がります。これを回折といい、すき間が細いほど、より斜めに広がります。露光装置のレンズは、広がった光を集め直して、ウェーハの上に図を組み立て直します。そして図のいちばん細かいところは、いちばん斜めに広がった光が運んでいます。
だから波長のほかに、レンズがどれだけ斜めの光まで取り込めるかが効きます。これを開口数(NA)といい、大きいほど斜めの光まで集められます。
教科書では、焼ける細さはおおよそ「係数×波長÷開口数」と説明されます。係数はプロセスの腕前(光の当て方、レジストの良し悪し)で決まり、1回の露光では理論上0.25が下限で、量産ではそれより少し大きくなります。ここでいう「細さ」は、同じ幅の線とすき間がびっしり並んでいるときの、線1本の幅のことです。
レンズとウェーハのあいだが空気だと、なぜ足りないのか
従来のドライ露光では、レンズの最後の1枚とウェーハのあいだは空気です。光がガラスから空気へ斜めに出るとき、ある角度より斜めだと外に出られず、全部はね返されます。水にもぐって斜めに見上げると、水面が鏡のように見えるのと同じです。そのため空気の中では開口数は必ず1より小さく、いちばん進んだドライの装置で約0.93でした。
式に入れると、0.25×193÷0.93で約52ナノメートル。これがドライの1回露光の理論上の限界です。
水を入れると、なぜよくなるのか
屈折率は、その物質の中を光がどれだけゆっくり進むかだと考えてください。空気は1、193ナノメートルの光に対して水は約1.44です。レンズとウェーハのあいだを水にすると、それまではね返されていた斜めの光が水に入り、ウェーハまで届きます。開口数は1を超えられるようになり、最大で約1.35です。
別の見方もできます。水の中では光の波長が1÷1.44に縮み、193ナノメートルの光は約134ナノメートルになります。「実効波長」が短くなるのです。
係数が同じなら、開口数が0.93から1.35になると、焼ける線は約3割細くなります。0.25×193÷1.35で約36ナノメートル。量産での1回露光は、40ナノメートル前後が目安です。液浸露光は2000年代半ばから量産に使われています。
液浸露光では、1つずつ何に気をつけるのか
水のおかげで線は細くなりましたが、気をつけることも増えました。
ステップ1:レジストの上に、まず保護をのせる
- 何をする:レジストを塗ったあと(「フォトレジストとは?」)、とても薄い保護膜(トップコート)を重ねることが多く、表面が自然に水をはじくレジストを使うこともあります。
- なぜ:レジストが水につかると、成分の一部が水に溶け出し、水もレジストにしみ込みます。
- しないとどうなる:レジストの光への感じやすさが変わり、線幅がずれます。欠陥が増えることもあります。
ステップ2:水はレンズの下だけに。送りながら吸い取る
- 何をする:レンズの下の輪のようなフードが、レンズとウェーハのあいだの狭いすき間に超純水を送りつづけ、外側から吸い取ります。
- なぜ:露光中、ウェーハステージはレンズの下を高速で動き、1ショットずつ焼いていきます。水をレンズの下の小さな範囲にとどめておかないと、振り飛ばされてしまいます。
- しないとどうなる:水が行くべきでないところへ行き、ウェーハや装置に水滴や汚れが残ります。
ステップ3:水はとても純粋に、とても安定させ、泡を入れない
- 何をする:溶けている気体を抜いた超純水を使い(「超純水はどれくらい純粋?」)、温度もとても安定させます。
- なぜ:泡やパーティクルは光を散らします。カメラのレンズについたほこりのようなものです。また水の屈折率は温度で変わるので、温度がふらつくと、光の焦点の位置もふらつきます。
- しないとどうなる:泡の影がレジストに焼き付いて欠陥になります。焦点がずれれば、図がぼやけます。
ステップ4:レンズが通ったあとに、水を残さない
- 何をする:ウェーハの表面をよく水をはじくようにし、フードが通ったところの水をすべて回収します。
- なぜ:ウェーハステージが速く動くほど、うしろに小さな水滴を引きずりやすくなります。表面が水をはじくほど、水がついてこられます。
- しないとどうなる:水滴が乾いて跡(ウォーターマーク)が残り、そこのパターンがだめになります。表面がどれだけ水をはじくかが、装置をどこまで速く動かせるかの上限にもなります。
1回の露光でまだ足りないときは?
もっと密になると、1回の露光では線と線を分けられません。そこで1つの層を何回かに分けてつくります。これがマルチパターニングです。よく使われるのは2つのやり方です。
2枚のマスクに分けて、2回焼く
密すぎる線の列を、1本おきに2枚のマスクに分けます。どちらのマスクも線の間隔が2倍に広がるので、1回の露光で焼けます。1枚目を焼いてエッチングし、2枚目を焼いてエッチングすると、2組の線が合わさって、間隔が半分になります。英語でlitho-etch-litho-etch、略してLELEと呼ばれます。
むずかしいのは位置合わせです。2回目は1回目にぴったり合わせなければならず、少しでもずれると、すき間が片側だけ広く、片側だけ狭くなります(「重ね合わせ(オーバーレイ)とは?」)。
まばらな線をつくり、その側面の膜を線にする(自己整合)
- まばらな線の列をつくる:間隔は最終的にほしい間隔の2倍。1回の露光とエッチングでつくれます。
- ウェーハ全体に均一な膜をつける:1本1本の線に上着を着せるようなものです。膜の厚さが、そのまま新しい線の幅になるので、とても均一に成膜します(成膜は「成膜とは?」)。
- 真下に向かって削り、上と底の膜を取る:線の両側に張り付いた部分だけが残ります。削り足りないと線どうしがつながったまま、削りすぎると側面の膜まで少し削れてしまいます。
- もとの線を取り除く:両側の膜が残り、1本の線が2本になって、間隔は半分になります。新しい線はもとの線に沿ってできるので、もう一度位置合わせをする必要がありません。だから自己整合といいます(自己整合ダブルパターニング、SADP)。
- 切るためのマスクを、もう1枚焼く:できあがるのは端どうしがつながった線の列なので、いらない部分を切り離します。切らないと、つながってはいけないところがつながったままです。
これをもう1回くり返すと、間隔は4分の1になります。
代わりに何が増えるのか
- マスクが増える:いちばん焼きにくい層に、2枚以上のマスクが要ります(1セットがなぜ高いのかは「フォトマスクとは?」)。
- 工程が増える:露光、エッチング、成膜が1回増えるごとに、ウェーハが通る工程が増え、待ち時間も延び、失敗のチャンスも1回増えます。
- 位置合わせが厳しくなる:何回かに分けてつくった図を1つの層に組み合わせるので、許されるずれは1回で焼くときより小さくなります。
- 図を自由に描けない:近すぎる2つの図形は同じマスクに置けません。自己整合のやり方は、平行な線の列がいちばん向いています。
いちばん細い層は、その後どうなったのか
いちばん細いいくつかの層は、のちに波長約13.5ナノメートルの極端紫外線に移り、1回の露光で焼ける層も出てきました。くわしくは「極端紫外線(EUV)とは?」へ。ほかの多くの層は、いまも193ナノメートルの液浸露光です。チップには数十の層があり、どの層もそこまで細いわけではないからです。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押して、左右にスワイプしてプロセスエンジニアにし、名前の下の「リソグラフィ」を押すと、リソグラフィのプロセスエンジニアになります。朝シフト「アライメント規格外」では、ロットP-3A08の重ね合わせが規格外で、リワークするか、そのまま流すかを決めます。
クリーンルームの左側にあるリソグラフィエリアを押し、説明カードで「分解して見る」を押すと、露光装置のモデルが開きます。部品のひとつ「液浸フード」には「レンズのいちばん下の1枚とウェーハのあいだには、ごく薄い超純水の層しかない」と書いてあります。「動きを見る」を押すと、マスクとウェーハが逆向きにいっしょに動き、1区画ずつ焼いていくところが見られます。ホーム画面の「学習」タブで「露光装置」を押しても、同じ装置が開きます。ゲームでは露光装置の開口数は出てこず、マルチパターニングも描いていません。装置のモデルは一般的な図解です。ゲームに出てくる会社・人物・ロット番号・数字は架空で、液浸露光とマルチパターニングは、公開されている一般的な資料をもとに書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うか量産工場でリソグラフィエリアを押し、説明カードの「分解して見る」を押すと、露光装置の部品に「液浸フード」があります。レンズのいちばん下の1枚とウェーハのあいだには、ごく薄い超純水の層しかありません。
fab24hrでは露光装置を分解して見られます。レンズの下にあるのが、その水の層です。リソグラフィのプロセスエンジニアになると、朝シフトに重ね合わせが規格外のロットがあなたの判断を待っています。
リソグラフィのプロセスエンジニアで、重ね合わせが規格外のロットを見る先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「193ナノメートルの光で、なぜ数十ナノメートルの線が焼けるのか? 液浸露光とマルチパターニング」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/immersion-litho/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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