半導体チップは、なぜこんなに高いのか
チップが高いのは、お金の多くが、最初の1個ができる前に出ていくからです。設計には大勢のエンジニアが長い時間をかけ、回路を焼き付けるためのフォトマスク一式も高く、半導体工場を建てて装置をそろえるのはさらに高くつきます。そのあと、ウェーハは1枚ずつ工場の中で数百の工程を何か月もかけて通ります。不良になったチップの分も計算に入り、最後にパッケージとテストがあります。これを売れたチップ1個1個に分けたものが、チップのコストです。
ただし「高い」かどうかは、チップの種類によります。とても安いチップもあれば、ずっと高いものもあります。1つずつ見ていきます。
チップのお金は、何に使われている?
大きく分けると、この6つです。
- 設計
- フォトマスク:回路を焼き付けるための「原版」
- 半導体工場と装置
- 加工:ウェーハが工場の中で過ごす何か月か
- 不良のチップ:良品が不良品の分も負担する
- パッケージとテスト
はじめの3つは、最初の1個をつくる前に出ていく大きなお金です。あとの3つは、ウェーハを1枚、チップを1個多くつくるたびに、そのつどかかります。
チップの設計は、なぜそんなに高い?
スマートフォンのチップには、100億個以上の小さなスイッチがあります(トランジスタとは?)。これをどうつなぐか、どこかでおかしくならないかを、まずコンピューターの上で描き、何度もシミュレーションします。設計が正しいかを確かめるだけでも、人手の大きな部分を使うことがよくあります。だから大きなチップの設計には大勢のエンジニアが必要で、設計を始めてから最初のチップができるまで、数か月から1年以上かかることもよくあります。
設計に使う専用ソフトのライセンスは高価です。回路の一部に、ほかから買ったできあいの設計を使えば、その分のお金もかかります。設計の仕事については「チップはどうやって設計する?」へ。
このお金は、つくる数とは関係ありません。1個でも1億個でも、設計はしなければなりません。
フォトマスクとは? なぜ一式でそんなに高い?
設計を仕上げて渡すことをテープアウトといいます。次にフォトマスクをつくります。露光に使う「原版」で、回路のパターンが描かれたガラスの板です。露光装置は光でそのパターンを縮小し、ウェーハに焼き付けます(どう焼き付けるかは「フォトリソグラフィとは?」)。
チップの層ごとに、少なくとも1枚のマスクが必要で、一式は数十枚になることが多く、先端のプロセスほど増えます。どの1枚にも、とても細かいパターンを1か所の間違いもなく描かなければなりません。一般的な資料が一致して示す大きさは、先端のプロセスなら一式で軽く100万ドルを超え、新しい世代ほど高い、というものです。
テープアウトのあとで設計の間違いが見つかれば、設計を直してマスクをつくり直すことになり、お金と何か月かがいっしょに失われます。
半導体工場と装置は、どれくらい高い?
とても高いです。先端の半導体工場を建てて装置で埋めるには、数十億ドルから100億ドル以上かかり、とても大きな会社にしか出せない額です(ファブとは?)。装置のなかでも、最先端の極端紫外線の露光装置は、1台だけで1億ドルを超えます(極端紫外線(EUV)とは?)。
装置は買ったあと、使っていてもいなくても毎日価値が減っていきます。だから半導体工場は24時間動かして、このお金をできるだけ多くのウェーハに分けます(半導体工場はなぜ24時間止まらないのか)。
工場の中の何か月かにも、お金がかかる
ウェーハはウェーハ投入からできあがるまで、数百の工程を通り、数週間から何か月もかかります(ウェーハをつくるのにどれくらいかかる?)。どの工程でも、装置の時間と電気、そして交代で働く人を使い、多くの工程では超純水、ガス、薬液も使います。工程が多いほど、ウェーハ1枚にかかるお金も増えます(「半導体工場はなぜ大量の電力を使うのか」もどうぞ)。
不良のチップに、なぜお金がかかる?
1枚のウェーハには一度にたくさんのチップをつくります。小さいものなら1000個以上、大きいものなら数十個。そして必ずいくつかは不良になります。ウェーハ1枚にかかるお金はほぼ決まっているので、良品が少ないほど、良品1個が負担する分が増えます(ニュースの「歩留まり」とは?)。
大きなチップは二重に損をします。1枚に入る数が少なく、欠陥に当たる確率も高い。だから大きなチップのコストは特に速く上がります。
途中で救えなくなったウェーハはスクラップです。完成に近いほど、失うものが大きくなります。救えるものはリワークしますが、そのぶん装置と時間をよけいに使います。
パッケージとテストにも、お金がかかる
ウェーハができたら、次は後工程です。ふつうは、まずウェーハテストでチップを1個ずつ全部調べ、不良品はパッケージに入れず、その分のお金を節約します。良品は切り分けてパッケージに入れ、もう一度テストします(チップはどうテストする?、パッケージングとは?)。
テスターは高価なので、1個あたりのテスト時間が長いほどお金がかかります。パッケージにも安いものと高いものがあり、ピンが多いほど、熱を逃がす必要があるほど高くなります。とても小さくて安いチップでは、パッケージとテストがコストの大きな部分を占めることがあります。
同じチップをたくさんつくると、なぜ1個が安くなる?
先に使ったお金を、とても薄く分けられるからです。
プラスチックのおもちゃを考えてみてください。まず高い金型をつくります。そのあとは1個増えるごとに、少しのプラスチック代がかかるだけです。10個しかつくらなければ1個がとんでもなく高く、100万個つくれば金型の分はほとんど見えなくなります。チップの設計とマスクは、この金型のようなものです。
仮の数字で計算してみます。設計とマスクで、合わせて1億かかったとします。
| つくった数の合計 | 1個が負担する設計とマスクの分 |
|---|---|
| 1万個 | 1万 |
| 100万個 | 100 |
| 1億個 | 1 |
チップそのものをつくるお金は同じでも、1個が負担する分は1万倍も違います。
最先端のチップは、なぜ特に高い?
いちばん新しい世代では、どの項目も高くなる方向に動きます。
- 設計が難しい:スイッチが多く、確かめることも多い。
- マスクが多く、高い:いちばん細かい層には極端紫外線を使うか、以前の光で何回かに分けて焼き付ける。
- 工場と装置が高く、しかも新しいので、まだ元が取れていない。
- 工程が多く、ウェーハが工場にいる時間も長い。
- 最初は歩留まりが低い:まだ見つかっていない問題が多い。
新しい世代のよいところは、同じ大きさにより多くのスイッチが入り、速く、省電力になることです(ニュースの「2ナノ」)。でもこれだけ高いので、本当に必要で、しかも大量につくるチップでなければ、たいてい割に合いません(「ムーアの法則とは?」もどうぞ)。
では、安いチップがあるのはなぜ?
車や家電、充電器に入っている小さなチップの多くは、とても安いものです。どの項目でも安いほうにいるからです。
- 古い世代のつくり方:装置の元はたいていとうに取れていて、工程が少なく、つくり慣れているので不良も少ない(ニュースの「成熟プロセス」とは?)。
- チップが小さい:1枚にたくさん入り、欠陥に当たる確率も低い。
- 大量に、何年も売れる:設計とマスクの分がとても薄くなる。
- パッケージがシンプル:ピンが少なく、熱もあまり出ないので、安いパッケージで足りる。
つまり、チップが高いかどうかは、だいたい3つで決まります。どの世代のつくり方か、チップの大きさ、そして全部でいくつつくるかです。
fab24hrでは
ゲームには値段は出てきませんが、多くの選択がコストにつながっています。メインストーリー「チップの一生」の第3章「不良の形」では、顧客は補聴器のチップ「Glowmere」をできるだけ小さくしたいと考えています。シンイーはチップの中に、自分たちのTEGを2か所残したいと言い、ワン部長は「2か所で、チップ面積が2%増える。顧客から理由を聞かれるだろう」と言います。第4章「2週間前倒し」では、顧客がリスク投入を望みます。不合格なら、そのロットは丸ごとスクラップになりえます。第8章「時間との勝負」では、特急ロットH-2417の7枚目に手動で追加エッチングをします。最初の6枚はもう処理済みで、もう一度エッチングすればスクラップになります。第10章「待機電流」では、テストの上限を少し厳しくするだけで歩留まりが5ポイント近く下がり、初回分が足りなくなります。
マスクエンジニアを遊ぶなら、「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプしてマスクエンジニアで止めます。午後のシフトでは、あるマスクのペリクルに傷が1本見つかります。この層にはこのマスクしかなく、予備はありません。使えばロットは流れ続け、貼り替えに出せばこの層は2日止まります。ゲームに出てくる会社・チップ・人物・ロット番号・数字は架空です。チップのお金が何に使われるかは、公開されている一般的な資料をもとに書き、金額は資料が一致しているおおよその大きさだけを書いています。用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかメインストーリー「チップの一生」の第3章では、顧客はチップをできるだけ小さくしたく、TEGを2か所残すとチップ面積が2%増えます。マスクエンジニアを遊ぶと、午後のシフトで「この層にはこのマスクしかなく、予備はありません」という場面に出会います。
fab24hrでは、チップがいくらで売れるかを計算する人はいません。でも、多くの選択がコストにつながっています。何枚かのスクラップ、1回のリワーク、2日止まる1つの層。
出勤して、どの選択がチップを高くするのか見てみる先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
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