APCとは? 測ったあと自動で補正する仕組み:フィードバックとフィードフォワード
APCはadvanced process controlの略で、日本語では「先進プロセス制御」と呼ばれます。半導体工場では、システムが決まったルールに従ってプロセスを少しずつ調整する仕組みのことです。ウェーハのロットを処理して測るたびに、測った数字を目標と比べ、次のロットの設定をどれだけ変えるかを計算して、装置へ送ります。いちばんよく使われるのはRun-to-Run制御(R2Rとも書きます)。工場で「次のロットで補正する」と言うとき、計算しているのはたいていこれです。APCという3文字は、ほかの分野では別の意味で使われています。この記事で扱うのは、半導体工場のプロセス制御だけです。
なぜ調整し続けるのか:装置はゆっくりドリフトする
装置は、レシピと呼ばれる決まった設定に従って処理します(「半導体のレシピとは?」)。ところが同じ設定でも、今月と来月で同じ結果になるとはかぎりません。エッチング装置のチャンバー内壁には少しずつ付着物がたまり、削れる速さが変わります。CMPの研磨パッドは使ううちに表面がなめらかになり、同じ時間でも削れる量が減ります。
何年か使ったオーブンで、同じ温度・同じ時間で焼いても、仕上がりが少しずつ変わっていくのと同じです。放っておくと、線幅や膜厚が少しずつ目標から離れていきます。定期的なメンテナンス(PM)で装置は元に戻りますが、メンテナンスとメンテナンスのあいだのゆっくりしたドリフトを受け持つのがAPCです。
フィードバックはどう動く? 1ステップずつ
フィードバックは、自分の装置の直近の結果を見て、次のロットを直すことです。1周はこう進みます。
ステップ1:今の設定でこのロットを処理する
- 何をする:装置はレシピどおりに処理します。ほとんどの数字は固定で、あらかじめ決めたいくつかだけをシステムが調整します。たとえば研磨の秒数や、露光装置のアライメントの位置です。
- なぜ:決めた数字しか動かさなければ、結果が変わったとき、どの数字のせいかがわかります。
- しないと:何でも動かせると、問題が起きたときにたどれません。
ステップ2:測る
- 何をする:何枚かを抜き取って、線幅や膜厚、この層と下の層がどれだけ正確に重なっているか(重ね合わせ。「重ね合わせとは?」)を測ります。測り方は「半導体工場は、工程がうまくいったかをどう確かめる?」へ。
- なぜ:システムは数字をもとにしか補正できません。測らなければ、どれだけずれたかわかりません。
- しないと:新しい数字が入らず、前回の設定のまま処理を続けるしかありません。
ステップ3:目標と比べて、差を出す
- 何をする:測った値から目標を引きます。目標が40で41だったなら、1多い、ということです。
- なぜ:調整するのは「どれだけ、どちらへずれたか」です。
- しないと:測った数字だけでは、どちらへ動かせばいいかわかりません。
ステップ4:ルールに従って次のロットの調整量を出す
- 何をする:差をそのまま全部戻すのではなく、直近の何ロット分かのずれを重みつきで平均します。新しいロットほど重く、たとえば最新のロットを3割、それまでの積み重ねを7割として数えます。そのうえで、あらかじめ測っておいた関係(たとえば研磨を1秒延ばすと、だいたいどれだけ多く削れるか)を使って、次のロットの設定に直します。
- なぜ:測った数字には、いつもノイズが混じっています。測定そのものが少しぶれますし、ウェーハも1枚ずつ少しずつ違います。平均すれば、1回のぶれは設定を少し押すだけ。装置が本当にドリフトしているときは、ずれがロットごとに同じ側に出るので、それが積み重なっていきます。
- しないと:強く補正しすぎると、ノイズにつられて行ったり来たりします。このロットがたまたま高めだったので一気に下げる。次のロットはノイズがたまたま低めで、さっき下げたぶんも重なって、もっと低くなる。放っておくより、かえって揺れが大きくなります。弱すぎると、今度は装置のドリフトに追いつけません。
シャワーの温度合わせと同じです。冷たいと思うたびに大きく回し、熱いと思うたびに大きく戻すと、熱くなったり冷たくなったりをくり返します。少し回して、少し待ってから確かめると、落ち着きます。
ステップ5:新しい設定で次のロットを処理し、また測る
- 何をする:新しい数字が装置へ送られ、次のロットはそれに従って処理されます。終わったらステップ2に戻ります。調整のたびに、どれだけ動かしたかを記録します。
- なぜ:装置は変わり続けるので、補正も追い続ける必要があります。
- しないと:一度補正して終わりにすると、装置はドリフトを続け、ずれがまた少しずつ戻ってきます。
フィードフォワードとは? 前の工程の知らせを先に受け取る
フィードフォワードは向きが逆です。自分の処理結果ではなく「入ってくるロット」を見て、処理する前に合わせておきます。
たとえば前の工程で膜をつけて、このロットはいつもより少し厚いと測れたとします。その数字を先に次のCMPへ渡せば、CMPは少し長めに磨き、仕上がりがちょうど目標に入ります。エッチングでも、前の工程で測った線幅に合わせて少し調整できます。ごはんを炊くときで考えると、こうなります。
- フィードバック:今回のごはんがかたかったので、次は水を少し多めにする。
- フィードフォワード:この袋は新米で水分が多いので、炊く前から水を少し控えめにする。
2つはよくいっしょに使われます。フィードフォワードは「入ってくるものが違う」に、フィードバックは「自分の装置が変わっていく」に対応します。
「次のロットで補正」と「管理限界の中なら動かさない」は矛盾しない?
「SPCの管理図とは?」を読んだ人は、こう思うかもしれません。あちらでは、管理限界の中の小さな揺れで装置を調整してはいけない、かえって乱れると書いてあった。こちらでは、ロットごとに補正するという。この2つはぶつかりません。違うのはどう調整するかです。
- SPCの「動かさない」:1点が少しずれたのを見て、人が手で装置を調整し、ずれた分をそのまま戻すこと。1点はたいていただのノイズなので、本気にして動かすと、揺れをもう一度足すことになります。
- APCの補正:あらかじめ決めたルールに従い、決めた数字だけを、何ロット分かの平均をもとに、少しずつ動かします。相手は同じ方向へのゆっくりしたドリフトで、1回のノイズではわずかしか動きません。
この2つの考え方は、はじめから組み合わされていました。1990年代のはじめ、Run-to-Run制御を最初に提案した大学の研究は、統計的工程管理とフィードバック制御を組み合わせるというものでした。今もよく両方を使います。APCで調整したあとの結果も、ふだんどおり管理図に描きます。
| 見えている変化 | たいていは | どうする |
|---|---|---|
| ロットごとに上下する小さな揺れ | ノイズ | 放っておく。APCも少ししか動かない |
| ロットを追うごとに同じ方向へ少しずつ | 装置のドリフト | APCがルールどおり補正する |
| 急に大きく跳ぶ | 何かが壊れたか、替わった | 管理図が知らせ(OOC)、人が止めて原因を探す |
システムに任せてはいけないのはどんなとき?
APCは2つのことを前提にしています。測った数字が正しいこと、装置の変化がゆっくりで、急に別の状態になっていないこと。どちらかが崩れたら、人が見る必要があります。
- 測定装置そのものがずれている:システムは製品がずれたと思い、まちがった数字に合わせて補正し、どんどん外れていきます。だから数字が急に跳んだときは、まず測り直すことがよくあります。
- メンテナンスや部品交換のあと:装置の状態が変わり、それまでの何ロット分かの平均は今の装置を表していません。まずテストランをして、システムに新しい出発点を与えます。
- 新しい製品や、長く流していなかった製品:平均できる最近のロットがありません。まず1枚だけ先に流して測り、残りをどう流すかを決めることがよくあります。
- 補正が同じ方向にどんどん大きくなる:装置の中で何かがすり減ったり、たまったりしていることが多く、補正はそれを隠しているだけです。必要なのはメンテナンスで、補正を足し続けることではありません。
APCとFDCはどう違う?
ひと言でいうと、FDCは装置が処理しているあいだのセンサーの数字(圧力、温度、電力)を見張り、しきい値を超えたらすぐ人を呼びます。見ているのは「装置に何か起きていないか」です。APCは処理後に測った結果を見て、「次のロットをどう調整すれば目標に入るか」を計算します。両方をAPCに含める資料も少なくありません。この記事で扱ったのは、調整するほうの半分です。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプしてプロセスエンジニアで止め、名前の下の「リソグラフィ」を押すと、リソグラフィのプロセスエンジニアになります。朝シフトでは、P-3A08の重ね合わせが規格外です。測定マップの矢印を見ながら、平行移動補正・回転補正・倍率補正の3つを試し、矢印がほんの少しになるものを見つけて、後のロットすべてに入れます。下の層は別の露光装置で露光されていたので、もうひとつ選びます。いちばん大事な層は同じ装置に固定するか、2台の差を補正に入れて、補正に追いかけさせ続けるか。P-3A08そのものをリワークするかどうかも、あなたが決めます。
開発ラインのリソ開発プロセスエンジニアの朝シフトは、新しい層への初めてのアライメントで、参考にできる前のロットがありません。CMPのプロセスエンジニアの昼シフトでは、前の工程がターゲットを新しくして膜が厚くなります。その知らせを先にCMPへ届けるのが、フィードフォワードの考え方です。
ゲームの補正は自分で決めて押しますが、実際の工場では、毎日の小さな補正はシステムがルールに従って計算することが多く、人はルールと例外を受け持ちます。ゲームに出てくる会社・人物・装置番号・数字は架空です。APCとは何かは、公開されている一般的な資料をもとに書いていて、実際のやり方は工場ごとに違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかリソグラフィのプロセスエンジニア(量産工場 › プロセス › リソグラフィ)を遊ぶと、朝シフトでP-3A08の重ね合わせが規格外に。測定マップの矢印を見ながら平行移動・回転・倍率の3つの補正を試し、合っていたものを後のロットすべてに入れます。
fab24hrでは、補正は少しずれるたびに動かすものではありません。まずどうずれているかを見きわめ、どの項目を補正するか、ずれたロットをやり直すかを決めます。
リソグラフィのプロセスエンジニアで遊び、重ね合わせの補正を試す先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「APCとは? 測ったあと自動で補正する仕組み:フィードバックとフィードフォワード」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/apc/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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