FDCとは? 装置のセンサーは、どうやってずっと見張られているのか
FDCは fault detection and classification の略で、日本語では「故障検知・分類」などと訳されます。半導体工場では、装置の異常検知のために装置を見張る、監視の仕組みのことです。装置がウェーハを1枚流すあいだ、圧力、温度、電力、ガス流量はずっと記録されています。FDCはその数字を「いつもの形」と比べ、範囲を外れたらすぐ人を呼ぶ通知を出し、どんな種類の問題なのかを見分ける手助けもします。FDCという3文字はほかの分野では別の意味でも使われますが、この記事で扱うのは半導体工場の装置監視です。
装置は何を記録し続けている?
エッチング装置を例にとると、動いているあいだ、中のセンサーはずっと測っています。
- 圧力:密閉されたチャンバーの中のガスの圧力。
- 電力:プラズマをつけるためにどれだけの電力を送り込み、どれだけが入りきらずに跳ね返ってきたか(プラズマについては「プラズマとは?」へ)。
- ガス流量:それぞれのガスが1分あたりどれだけ流れ込んだか。単位はよくsccmで書かれます。
- 温度:たとえば、ウェーハの下にあるステージの温度。
- 裏面のヘリウム:ウェーハの熱を逃がす薄い層(He背圧)。流量が高いほど漏れが多いということで、多くはウェーハがしっかり密着していないためです。
こうした数字は時間に沿って1件ずつ、1秒に1件ほど記録されることも多く、ウェーハ1枚ごとにひとそろいの曲線が残ります。人の目では追いきれない量なので、コンピュータに任せるしかありません。
心拍を記録するリストバンドを思い浮かべてください。走っているときに心拍が速いのは普通ですが、座ってぼんやりしているときに同じだけ速いのはおかしい。FDCも同じで、見るべきは「このステップで、この数字はいつもどれくらいか」です。
半導体製造の教科書は、測るものを2種類に分けています。ウェーハを測る(膜の厚さ、線の幅)ものと、装置を測る(圧力、電力、温度)ものです。計測が見るのは前者、FDCが見るのは後者です。
計測を待てばいいのでは?
計測には時間がかかり、しかも何枚かを抜き取って測るだけだからです。膜厚や線幅が合っているかは、ウェーハを処理し終えて測りに出して、初めてわかります(「半導体工場は、工程がうまくいったかをどう確かめる?」へ)。装置が決まった間隔で流すモニターウェーハも、しばらくおきに1枚です(「モニターウェーハ、ダミーウェーハとは?」へ)。2回の計測のあいだに、装置はもう何ロットも処理しているかもしれません。
FDCはウェーハを1枚残らず、しかも処理しているその場で見ます。ある論文はこう比べています。処理のあとに抜き取りで調べると、問題が起きたとき多くのウェーハに影響が出るかもしれない。処理中に見張っていれば、そのとき処理中の1枚の段階で気づける見込みがあり、影響はずっと少なくて済む。
FDCはどう動く? 1ステップずつ
ステップ1:1枚ごとの曲線を記録する
- 何をする:ウェーハを流すたびに、センサーの数字を曲線として保存し、どの装置、どのチャンバー、どのウェーハ、レシピの何番目のステップかを記録しておきます。
- なぜ:同じ数字でも、レシピのステップが違えばもともと値が違います。どのステップ、どのウェーハかがわかって、初めて比べられます。
- しないとどうなる:全体の平均を1つ残すだけでは、どのステップで問題が起きたかも、どのウェーハが影響を受けたかもわかりません。
ステップ2:「いつもの形」と比べる
- 何をする:これまでにうまくいったウェーハの記録から、各ステップがふだん収まる範囲を決めます。これがしきい値です。よくあるやり方は、曲線をレシピのステップごとに区切り、それぞれの区間をいくつかの代表的な数字(たとえば平均)にまとめて比べるものです。
- なぜ:装置は1枚ごとに少しずつ揺れます。「いつもの揺れ」と「本当に違ってきた」を見分ける必要があります。
- しないとどうなる:しきい値をいい加減に決めると、鳴りっぱなしになるか、鳴るべきときに鳴りません。
ステップ3:範囲を外れたら、人を呼ぶ通知を出す
- 何をする:数字がしきい値を超えると、FDCはその装置の担当者に通知を送ります。どの装置の、どの数字が、どのウェーハで外れたかをはっきり書きます。
- なぜ:早く誰かが気づくほど、次のウェーハまで不良にならずに済む見込みが高くなります。
- しないとどうなる:数字が知らないうちに外れ、誰も気づかず、計測で見つかったときには何ロットも過ぎています。
ステップ4:どんな種類の問題かを見分ける(分類)
- 何をする:その通知が何なのかを判断します。本当に何かが壊れたのか(たとえば、あるガスの流量を制御する部品からのリーク、部品の摩耗)、センサー自体の信号が一瞬途切れただけなのか、それとももともと跳ねる正常な変化なのか(たとえば、レシピが次のステップに切り替わる瞬間)。これがFDCの「C」、分類です。
- なぜ:問題の種類によって、呼ぶ人も対処も違うからです。
- しないとどうなる:全部を本物として扱えば人が走り回って疲れ果て、全部を誤報として扱えば、本物の1件が閉じられてしまいます。
ステップ5:問題が確かなら、OCAPに従う
- 何をする:あらかじめ書いておいた対応手順OCAPに沿って動きます。装置をまず止め、不良になったかもしれないウェーハをホールドし、エンジニアに知らせます。修理が終わったらテストランを行い、通ってから復旧です。
- なぜ:まず被害を止める。原因はそのあとで探せばいいからです。
- しないとどうなる:調べながら流し続けると、調べているあいだにさらに不良が増えます。
OCAPに何が書いてあるかは「OCAPとは?」へ。ホールドしたあとどう決めるかは「ホールドとは?」へ。
しきい値はどれくらい厳しくすべき?
ここがFDCでいちばん難しいところです。
- 厳しすぎる:ふつうの揺れでも鳴ります。エッチング装置のデータを調べた論文にも、正常な揺れはもともと大きく、本当の問題はわずかな違いでしかないことが多い、と書かれています。鳴りすぎると、人は通知を習慣で閉じるようになります。産業用のアラーム管理の規格は、頻繁に鳴る、あるいは必要もないのに鳴るアラームを「ニューサンスアラーム(迷惑アラーム)」と呼んでいます。これが増えると、本当に大事な1件も、ほかと同じように聞こえてしまいます。
- ゆるすぎる:静かにはなりますが、ゆっくり悪くなっていくものを見逃します。たとえば静電チャックが毎日少しずつすり減り、ウェーハの裏からもれるヘリウムが毎日少しずつ増えても、どのウェーハもまだ範囲内です。「この1点が線を超えたか」だけを見るチェックは、こうした小さくゆっくりしたずれにもともと弱いので、トレンドも見ます。1枚ごとに少しずつ高くなっていないか、です。
しきい値は一度決めたら終わりでもありません。PMや部品交換のあとは、曲線の形が変わることがあります。しきい値を決めて保つのは手間がかかるので、何が「いつもどおり」かをシステムがデータから学ぶ研究もあり、誤報と見逃しを同時に減らそうとしています。
FDCは、SPCやAPCとどう違う?
3つの略語はよく一緒に出てきますが、見ているものが違います。
| 何を見るか | いつ見るか | 答える問い | |
|---|---|---|---|
| FDC | 装置のセンサーの曲線 | 処理しているその場で、1枚ごと | 装置の様子がおかしくないか? |
| SPC | 測った結果を管理図に打った点 | 処理して測ったあと | 工程はいつもどおりか? |
| APC | 測った結果と目標の差 | 測ったあと、次のロットの前 | 次のロットをどれだけ調整するか? |
SPCの管理図の読み方は「SPCの管理図とは?」へ、APCが補正をどう計算するかは「APCとは?」へ。FDCが範囲内かどうかを判断するときも、管理図の考え方を借りることがよくあります。ただし点として打つのは装置の数字で、計測値ではありません。FDCをAPCの一部に数える資料も少なくありません。
3つは一緒に使われることが多い仕組みです。FDCは処理中に「装置に何か起きた」をつかみ、SPCは「工程がずれてきていないか」を見て、APCは次のロットを目標に戻します。FDCが残したデータは、装置の実際の状態に合わせて保守の時期を決めるのにも使えます(「装置のPM(予防保全)とは?」へ)。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプして装置エンジニアで止め、名前の下の「エッチング」を押すと、エッチング装置エンジニアになります。夜シフト「誤報続き」では、修理報告を書くために残ったあなたを、FDCが1件、また1件と呼びます。ETCH-05の反射電力は、レシピのステップが切り替わる1秒だけ跳ねる。MET-01のステージ真空は0まで落ちてすぐ戻る。センサーの信号が途切れただけです。1件ごとに、見に行くか、閉じるかを選びます。カイからは、ETCH系のしきい値は半年前に急いで決めたものだというメッセージが届きます。20%ゆるめるかどうかは、あなたが決めます。ゆるめなければ、21:00にもう1件、ETCH-03のチャンバーAのHe流量の通知が来ます。跳ね上がったのではなく、じわじわ上がってきたものです。
「チップの一生」の第5章「最後の空欄」では、あなたは開発ラインのエッチング開発プロセスエンジニアです。量産工場に引き渡すPORは、あと1欄だけ。He流量のアラーム上限です。3か月分の線には3つの山があります。センサーのコネクタのゆるみ、PM後の最初の1枚、そして1つだけが静電チャックの摩耗です。12と書けば3か月で3回鳴り、本物は1回。16と書けば一度も鳴りません。第6・7章は2か月後の量産工場です。02:47にETCH-03が止まり、さかのぼると、He流量は3日前からじわじわ上がり続け、黄色ランプのワーニングは6回閉じられていました。
ゲームに出てくる会社・人物・装置番号・数字は架空です。FDCとは何か、どう使うのかは、公開されている一般的な資料をもとに書いていて、実際のやり方は工場ごとに違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかエッチング装置エンジニア(量産工場 › 装置 › エッチング)の夜シフトでは、FDCが一晩じゅうあなたを呼びます。1件ずつ、見に行くか閉じるか、しきい値をゆるめるかを決めます。メインストーリー第5章「最後の空欄」では、He流量の上限を12にするか16にするかを書きます。
fab24hrでは、しきい値は誰かが書き込む1つの数字です。厳しくすれば夜中に起こされ、ゆるくすれば、ゆっくり悪くなるものに誰も気づきません。
第5章「最後の空欄」から始めて、He流量の上限を12か16か決める先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「FDCとは? 装置のセンサーは、どうやってずっと見張られているのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/fdc/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
ほかの記事
チップが大きいほど、歩留まりが下がるのはなぜ? 欠陥密度、歩留まりモデルと歩留まり向上
ホールドとは? 止めたロットを流すか、リワークか、スクラップかは誰が決める?
根本原因分析とは? 8Dとなぜなぜ分析の使い方
故障解析(不良解析)とは? 壊れたチップの原因をどう突き止める?
このサイトのほかのページ
- fab24hrとは?:2つの遊び方、4つのシフト、よくある質問、参考にした資料
- チップの一生:1個のチップの一生:テープアウト、試作、量産、ウェーハテスト、パッケージ、出荷、それぞれの段階でしていること
- 半導体工場エンジニアの一日:PE・EE・PIE・製造部の役割分担と、一日のタイムライン
- 半導体工場には誰がいる:技術員、製造部、プロセス、装置、ファシリティ、インテグレーション、品質保証、生産管理、マスク、開発、課長、メーカー、後工程のテストと組立:それぞれの一日
- 半導体工場の業界用語を、やさしく解説:MO、ホールド、Qタイム、OCAPなどの業界用語を、ひとことでやさしく
- 半導体入門講座:チップの一生をたどる:半導体入門講座:チップの一生をたどる図解ノート、スライド、必読記事、3D装置、考える問い。独学にも授業にも
- 半導体工場の装置を、分解して見る:31種類の半導体製造装置(エッチング、露光装置、CMP、拡散炉、後工程…)が何をしているか。どれも3Dモデルで分解して見られます
- 授業でfab24hrを遊ぶ:半導体の授業・教材:20/40分の流れ、1章1コマと1エリア1コマ(3D装置・ゲーム・記事)、話し合いのテーマ、ワークシート、よくある質問
- 紹介とメディア素材:プロモーション動画、ゲーム画面、紹介文と基本情報