重ね合わせ(オーバーレイ)とは? チップの上下の層は、なぜぴったり合わせるのか
重ね合わせ(オーバーレイ)とは、チップのある層のパターンが、その下の層とどれだけ正確に合っているかのことです。ずれた量を、重ね合わせ誤差といいます。チップはリソグラフィで1層ずつ焼き付けてつくり、層の数は十数層から数十層になります。新しい層は、どれも下の層の真上にぴったり重ねなければなりません。合っていれば上下がつながり、ずれれば、つながるべきところがつながらず、触れてはいけないところが触れてしまいます。
なぜ、どの層も合わせる必要があるの?
多色刷りの版画を思い浮かべてください。赤、黄、青をそれぞれ別の版に彫り、1色ずつ刷ります。どれか1枚の版が少し曲がっているだけで、色が線からはみ出します。チップも同じように1層ずつ重ねてつくりますが、もっと厳しい世界です。上の層の小さな穴が、下の層の接点にぴったり乗らなければなりません。
パターンをどう焼き付けるかは「フォトリソグラフィとは?」で説明しています。この記事では「合わせる」ことだけを扱います。
どれくらいまで、ずれてもいい?
回路でいちばん細い線よりも、ずっと小さい量です。ある大学の講義資料にある目安は、最小線幅の3分の1から5分の1。公開されている大学の論文には、線幅0.18マイクロメートルの世代で、許されるずれは約0.06マイクロメートルという例があります。
最新の世代になると、業界が共同でまとめる技術ロードマップの目標は、わずか2〜4ナノメートルです。髪の毛の太さは数万ナノメートルなので、髪の毛の1万分の1よりも細い話です。
1層はどうやって合わせ、測り、直すのか
アライメントと重ね合わせは別のものです。アライメントは露光の前にする動作で、重ね合わせは終わったあとに測る結果。狙うことと、どこに当たったかを確かめることの違いです。
ステップ1:露光の前に、アライメントマークを探す
- 何をする:ウェーハを露光装置に入れても、すぐには露光しません。センサーが、それまでの層がウェーハに残したアライメントマーク(小さな十字や縞模様。たいていはチップとチップのあいだの、最後に切り落とされる細い帯に置かれます)を探し、いくつものマークの位置を測ります。ウェーハ全体がどちらにずれ、どれだけ回り、少し伸びていないかを計算してから、各ショットをどこに焼くかを決めます。
- なぜ:ウェーハは置くたびに少しずつ位置が違い、前の工程でわずかにゆがんでいることもあります。1点だけでは足りません。
- しないとどうなる:合わせないまま露光すると、この層は下の層に重なりません。しかも、ずれ方がウェーハごとに違います。
1層目には、下に合わせる相手がまだありません。ウェーハの縁の小さな切り欠き(ノッチ)で向きをそろえるだけです。その層から先は、合わせるためのマークがあります。
ステップ2:露光と現像。測定用のマークもいっしょに焼く
- 何をする:計算した位置どおりに1ショットずつ露光し、現像します。フォトマスクには回路のほかに重ね合わせを測る専用のマークもあり、下の層のマークのすぐそばに焼き付けられます。たとえば、下の層に大きな四角、この層にはその内側に小さな四角です。
- なぜ:現像のあと、2つの層のマークが並ぶので、比べるものができます。
- しないとどうなる:チップが完成して電気的に測るまで、ずれに気づけません。そのころには何週間もたっています。
ステップ3:現像のあと、どれだけずれたかを測る
- 何をする:測定装置が光で2つの層のマークを見て、小さな四角が真ん中からどれだけ、どちらへずれているかを測ります。全部のウェーハは測りません。1ロットから数枚、1枚から数ショットを選び、ショットの四隅で1点ずつ測ることがよくあります。測定装置のしくみは「半導体工場は、工程がうまくいったかをどう確かめる?」へ。
- なぜ:たくさんの点のずれを並べてはじめて、ウェーハ全体がどんなずれ方をしているかが見えます。
- しないとどうなる:ずれに気づかないままエッチングへ進みます。
1点ずつ矢印で描くと、ずれ方はおおよそ次の種類に分かれます。
- 左右(x)・上下(y):どの矢印も同じ向きで、長さもほぼ同じ。シールが少し横にずれて貼られたような形です。
- 回転:矢印が中心のまわりを回るように並び、外側ほど長くなります。シールが斜めに貼られたような形です。
- 倍率:矢印が中心から外へ(または内へ)向き、外側ほど長くなります。全体がほんの少し引き伸ばされた(または縮んだ)ような形です。
ウェーハ全体にもこうしたずれがあり、ショットの中にもあります。これらを差し引いても残る、細かくて補正しきれないずれを、残差といいます。
ステップ4:ずれすぎ? レジストのうちにやり直す
- 何をする:規格を外れたら、まずそのロットをホールドし、リワークするかを決めます。レジストを丸ごとはがし、塗り直し、露光し直し、現像し直します。
- なぜ:現像のあと、パターンはまだレジストの上にあるだけで、下の材料にはまったく手がついていません。
- しないとどうなる:エッチングに進めば、ずれた位置が材料に刻まれ、もう戻せません。リワークにも代償があります。もう1回流し、もう1回処理を受け、数時間よけいにかかります。ずれがわずかなら、やり直す価値があるかを判断します。
ステップ5:ずれを露光装置に返し、次のロットで先に直す
- 何をする:測ったずれ(x、y、回転、倍率がそれぞれどれだけか)を露光装置に返し、次のロットではその逆向きに少し調整します。これを補正といいます。補正量はシステムが自動で計算することが多く、「APCとは?」で取り上げています。
- なぜ:同じ装置、同じ製品なら、ずれ方はくり返しがちです。このロットで測った分を、次のロットで先に直せます。
- しないとどうなる:どのロットも同じようにずれ、毎回測ってから気づいて、リワークすることになります。
なぜ、ずれるの?
- 露光装置そのもの:ウェーハステージの動き方や、レンズのわずかなゆがみ。どの装置にも、それぞれ小さなくせがあります。
- ウェーハが引っぱられてゆがむ:前の拡散炉の高温や、上に成膜した膜が、ウェーハを少し反らせたり伸び縮みさせたりして、マークの位置もいっしょに動きます。
- 熱による伸び縮み:温度が1°C違うだけで、直径30センチのシリコンウェーハは約0.8マイクロメートル大きくなります。最新の世代で許されるずれの何百倍にもなります。
- マークが少し崩れる:CMPやエッチングでマークの形が左右非対称になると、センサーが読む位置がずれます。
- 上下の層を別の露光装置で焼いた:2台のくせが違うので、打ち消し合いません。そのため、いちばん大事な何層かは同じ1台に固定することがあります。代わりに、その装置が混んでいるときは、ほかの装置が空いていても使えません。
ずれると、どうなる?
上の層の小さな穴は、下の接点や配線の上に乗らなければなりません。いちばん下でトランジスタにつながる穴がコンタクト、上下2層の配線のあいだの穴がビアです。
- 届かない:ずれると触れる面積が小さくなり、抵抗が上がります。ひどければ、まったくつながりません。
- 触れてはいけないところに触れる:横にずれて、トランジスタのゲートや隣の配線に触れると、ショートします。
こうした穴のつくり方は「トランジスタはどうやってつくる?」と「チップの中の配線はどうつくる?」へ。わずかなずれは、すぐにはわからないこともあります。回路がつながっているかは、何週間もあとのWATの測定でようやくわかることがよくあります。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押して、左右にスワイプしてプロセスエンジニアにし、名前の下の「リソグラフィ」を押すと、リソグラフィのプロセスエンジニアになります。朝シフトでは、ロットP-3A08の重ね合わせが規格外で、次の工程はエッチングです。測定装置で重ね合わせマップを見ます。格子はショット、黄色い矢印は、この層が下の層からどちらへどれだけずれているかを示します。平行移動補正、回転補正、倍率補正を試し、正しいものを選ぶと、矢印はわずかな残差だけになります。続けて記録を調べると、下の層は別の露光装置で焼かれていました。いちばん大事な何層かを同じ1台に固定するか、2台の差を補正に足すか。最後に、プロセスインテグレーションのヤーティンに答えを出します。リワークか、そのまま流すか。
同じエリアのリソグラフィ装置エンジニアの深夜シフトでは、露光装置がアライメントマークを見つけられずに止まります。開発ラインのリソ開発プロセスエンジニアの朝シフトでは、コンタクトの層をはじめて下の層に合わせ、重ね合わせを測ってから、どの項目を補正するかを選びます。メインストーリー「チップの一生」の第2章「一工程ずつ」では、1層目のパターンには下に合わせる相手がなく、ウェーハの切り欠きに合わせて置くだけです。ゲームに出てくる会社・人物・ロット番号・数字は架空です。重ね合わせの測り方と補正のしかたは、公開されている一般的な資料をもとに書いています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うかリソグラフィのプロセスエンジニア(量産工場 › プロセス › リソグラフィ)の朝シフトでは、P-3A08の重ね合わせが規格外で、次の工程はエッチング。測定装置で重ね合わせマップを見て、平行移動・回転・倍率のどの補正で矢印が短くなるかを試し、リワークするかを決めます。
fab24hrのリソグラフィの朝シフトは、重ね合わせが規格外のロットから始まります。補正はあとのロットに入れるとして、このロットはリワークか、そのまま流すか。
リソグラフィのプロセスエンジニアで、重ね合わせマップを読む先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「重ね合わせ(オーバーレイ)とは? チップの上下の層は、なぜぴったり合わせるのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/overlay/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
ほかの記事
プラズマとは? 半導体工場がエッチングにプラズマを使う理由
フォトマスクとは? どうやってつくり、1セットがなぜそんなに高いのか
OPC(光近接効果補正)とは? フォトマスクの図は、なぜチップの図と違うのか
エピタキシャル成長とは? ウェーハの上に、きれいにそろったシリコンの層をどう育てるのか
このサイトのほかのページ
- fab24hrとは?:2つの遊び方、4つのシフト、よくある質問、参考にした資料
- チップの一生:1個のチップの一生:テープアウト、試作、量産、ウェーハテスト、パッケージ、出荷、それぞれの段階でしていること
- 半導体工場エンジニアの一日:PE・EE・PIE・製造部の役割分担と、一日のタイムライン
- 半導体工場には誰がいる:技術員、製造部、プロセス、装置、ファシリティ、インテグレーション、品質保証、生産管理、マスク、開発、課長、メーカー、後工程のテストと組立:それぞれの一日
- 半導体工場の業界用語を、やさしく解説:MO、ホールド、Qタイム、OCAPなどの業界用語を、ひとことでやさしく
- 半導体入門講座:チップの一生をたどる:半導体入門講座:チップの一生をたどる図解ノート、スライド、必読記事、3D装置、考える問い。独学にも授業にも
- 半導体工場の装置を、分解して見る:31種類の半導体製造装置(エッチング、露光装置、CMP、拡散炉、後工程…)が何をしているか。どれも3Dモデルで分解して見られます
- 授業でfab24hrを遊ぶ:半導体の授業・教材:20/40分の流れ、1章1コマと1エリア1コマ(3D装置・ゲーム・記事)、話し合いのテーマ、ワークシート、よくある質問
- 紹介とメディア素材:プロモーション動画、ゲーム画面、紹介文と基本情報