WIPとMoveとは? 半導体工場が毎日見る2つの数字
WIPはwork in process(work in progressとも書きます)の略で、日本語では仕掛品。半導体工場のラインで、処理が始まったのに、まだ終わっていないロットのことです。Moveは、ロットが何工程進んだかを数えます。ウェーハ1枚が1工程を終えると、1 Moveです(ロット単位で数える工場もあります)。一方はラインにどれだけ溜まっているか、もう一方は今日どれだけ前に進んだか。ボードでは、この2つを毎日追います(Move/WIP)。
WIPとはどういう意味?
クリーニング店を思い浮かべてください。お客さんから預かって、まだ洗い終わって返していない服が、この店の仕掛品です。洗濯機の中で回っていても、かごの中で待っていても同じです。
半導体工場も同じです。ウェーハがウェーハ投入の日にラインに載ってから、最後の工程を終えて出ていくまで、そのあいだはずっとWIPです。装置の中で処理中のもの、ウェーハケースFOUPに入って順番を待っているもの、天井のOHTで運ばれているもの(「ウェーハは工場の中をどう移動する?」)、そしてホールドされてエンジニアの判断を待っているものも含みます。WIPは枚数でも数えますし、ロット数で話すこともよくあります。1ロットはたいてい、1つのケースに入ったウェーハです。
Moveとは? アウトプットと何が違う?
25枚のロットがエッチング工程を終えると、枚数で数えれば25 Move、ロットで数えれば1 Moveです。どの工程も終えるたびに数えるので、ウェーハ1枚は最初の工程から最後の工程まで、数百のMoveを積み上げます。
アウトプットが数えるのは、最後の工程を終えて工場を出たウェーハの枚数だけです。マラソンでたとえると、Moveは今日全員が走った距離の合計、アウトプットは今日ゴールした人数です。
両方を見るのは、ウェーハ1枚をつくるのに何か月もかかるからです(「ウェーハをつくるのにどれくらいかかる?」)。今日出ていくロットは、何か月も前に投入されたもの。今日ラインが流れているかどうかは、今日何工程進んだか、つまりMoveでわかります。
WIP、Move、サイクルタイムはどうつながっている?
この3つの数字には「リトルの法則」という簡単な関係があります。名前は、それを証明した研究者から来ています。ラインの仕掛品=1日に仕上がる量×1枚が工場にいる平均日数。長い期間の平均についての法則で、ラインの量がだいたい増えも減りもしていないときに成り立ちます。基本の例は「半導体工場の製造部は何をしている?」にあります。ここではMoveも入れてみます。
つくった例で考えます(どこかの実在の工場の数字ではありません)。あるラインは1日に400枚が仕上がり、1枚が通る工程は450、ラインには36,000枚あるとします。
- 1日に必要なMove:400枚×450工程=180,000 Move。
- 1枚が1日に進む工程数の平均:180,000÷36,000=5工程。英語ではturn rateとよく呼ばれます。
- 1枚が工場にいる平均日数:450工程÷1日5工程=90日。リトルの法則で計算しても同じで、36,000÷400=90日です。
ここで、いちばん忙しい工程がもういっぱいで、1日に仕上がる量は増やせないのに、ラインの量を40,000枚に増やしたとします。1枚がいる日数は40,000÷400=100日になり、10日延びます。余分に入れた4,000枚はアウトプットにならず、列に並んでいるだけです。
WIPが多すぎる、少なすぎると、どうなる?
多すぎると:
- 列が長くなる:どの工程の前にもロットが多いので、どのロットも長く待ち、サイクルタイムが延びます。
- Qタイムを超えやすくなる:工程によっては、次の工程を時間内に始めなければならず、列で待つ時間もカウントダウンに含まれます。列が長いほど、期限を過ぎてリワークになるロットが増えます(「Qタイムとは?」)。
- 身動きがとれない:特急ロットを割り込ませようにも、前の工程はどこも混んでいます。ある工程で間違いが見つかったときも、その工程をもう通って、まだ途中にいるロットが多くなります。
- お金がラインに寝る:会計では仕掛品は在庫です。お金はもう使ったのに、まだ売れるチップになっていません。
少なすぎると:装置の前にロットがなく、空いたまま待つしかありません。ライン全体でいちばん遅く、いちばん混んでいる工程をボトルネックと呼び、そこが1時間空けば、ライン全体で1時間分少なくなります(「稼働率とは?」)。
つまりWIPには「ちょうどいい量」があります。とても少ないところから増やしていくと、アウトプットも増えます。ボトルネックの前にいつも仕事がある状態まで来るとアウトプットは頭打ちになり、それ以上増やしても待ち時間が増えるだけです。半導体工場の研究も、目標をここに置いています。ボトルネックの前には仕事が足りていて、それでいてサイクルタイムを延ばすほどは多くない量です。
なぜMoveを毎日見る? Moveだけを見ると何を見落とす?
Moveは毎日、だいたいこう使われます。
- まず目標を決める:生産管理の投入計画・出荷計画と装置の能力から、各エリアが1日に何Move進めればいいかを計算します。そうすれば各区間が自分の分を進められます。決めなければ、ロットが溜まるエリアと、仕事のないエリアが出ても、誰も気づきません。
- システムに数えさせる:ロットが工程を終えてトラックアウトするたびに、製造実行システムMESが記録します(「MESとは?」)。工程も枚数もこれだけ多いと、人の手では数えきれません。数字が半日遅れて出てくるようでは、手を打つのが間に合いません。
- 毎日、目標と比べる:実際のMoveを目標で割ったものが、ボードの「MOVE達成率」です。下がったら、たいていどこかで止まっているので、どの工程で止まっているかを説明します。月末にアウトプットが足りないと気づいたのでは、もう取り戻せません。
Moveの合計だけを見ていると、見落とすことがあります。
- 流しやすい工程ほど進めやすい:Moveは、難しくても簡単でも、急ぎでもそうでなくても、どの工程も1つと数えます。早く終わる工程にロットを多めに通せば数字はよく見えますが、手間のかかるロットはいつまでも進みません。
- 特急ロットと合計は引っぱり合う:特急ロットのために装置を空けて待てば、そのあいだのMoveは減ります。それでも、特急ロットを間に合わせるほうが、合計を少し増やすより大事なことがよくあります(「ホットロット(特急ロット)とは?」)。
- すべてがボトルネックの前に溜まる:ボトルネックでない工程をどれだけ速く流しても、ロットはボトルネックの前に並ぶだけで、ライン全体のアウトプットは、ボトルネックがこなせる分しか出ません。
だからボードでは、Moveの隣に、WIP、Qタイム、特急ロットも並べます。
ある工程にWIPが溜まったら、どうする?
WIPは合計ではなく、どの工程の、どの装置の前に溜まっているかを見ます。研究では、工程ごとに目標のWIPを決め、多すぎても少なすぎても誰かが確認する、という形がよく見られます。いつも特に多い工程は、たいていボトルネックです。ボトルネックとしてよく扱われるのがリソグラフィの露光装置です。装置がとても高く、ウェーハは層をつくるたびにここへ戻ってきます。ボトルネックは移ることもあります。ある装置が突然ダウンすると、その工程がいちばん混む場所になることもあります。
ある工程に溜まったら、だいたい次の順に対応します。
- どの装置の前に溜まっているかを見る:同じエリアの装置でも、どのロットでも流せるとは限りません。確かめずにロットを回しても、流せないことがあります。
- 原因を探す:装置がダウンしたのか、ロットがホールドされたのか、前の工程から一度に流しすぎたのか。原因によって相談する相手が違い、相手を間違えると問題が残ったままになります。
- 回せるものは回す:まだ動いている装置にロットを割り振ります。これがディスパッチです(「半導体工場の製造部は何をしている?」)。回さなければ、動ける装置まで空いて待つことになります。
- 上流を少し緩める:次の工程が詰まっていれば、前の工程を終えても列に並ぶだけで、Qタイムのあるロットは列の中で期限を過ぎてしまいます。だから、詰まった工程へ向かうロットはいったん止め、ほかへ向かうロットはそのまま流します。そうしないと装置が空いてしまいます。
- 生産管理とすり合わせる:溜まった状態が続けば出荷日が動くかもしれず、このあとの投入を減らすことも考えます(「半導体工場の生産管理は何をしている?」)。研究では、ライン全体のWIPに上限を決め、それを下回ったときだけ新しいウェーハを入れるやり方も紹介されています(「ウェーハ投入とは?」)。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプして製造部を選びます。画面の右上には、ずっとMoveのランプとパーセントが出ています(パソコンでは前に「MOVE」と書かれますが、スマホではこの文字は出ず、画面がとても狭いとランプだけになります)。ディスパッチボードの組み方や、Qタイムを過ぎてしまったロットの数に合わせて、上がったり下がったりします。
朝シフトでは、ETCH-03のチャンバーAが02:47から止まったままで、後ろに9ロットが並んでいます。チェン課長が07:33に電話してくるところから始まることもあります。「今朝のエッチングのMoveは何割いけそう?まず数字をひとつ聞かせてほしい。」先に9割と答えることも、ディスパッチボードを見てから折り返すこともできます。そのあと9ロットを、ETCH-03のチャンバーB、05、07に振り分けます。08:30の朝会では、ユンが「昨夜のMoveは82%しか達成できず、生産ボードは赤ランプです」と報告し、続いてあなたがエリア全体のMoveが目標の何%かを報告します。会議室を押すと、壁の生産ボードには「MOVE達成率」82%、その隣の「エッチング工程のWIP」の欄には9ロット、上限6ロットと出ています。
リソグラフィのプロセスエンジニア(量産工場 › プロセス › リソグラフィ)としてプレイすると、深夜シフトに電話がかかってきて、これから露光する5ロットのうち、どれを露光前で止めておくかを決めることがあります。生産管理としてプレイすると、深夜シフトのスケジュール表に「工場全体の仕掛品の総数を数え直す」という項目があり、そこには「今日は総数が肝心ではない。H-2417がどの工程で、どれだけ止まっているかを見るほうが役に立つ。」と書かれています。
ゲームの会社、人物、装置番号、ロット番号、ボードの数字は架空です。WIP、Move、リトルの法則については、公開されている一般的な資料と研究論文をもとに書いています。実際の数え方(枚数かロットか、どの工程を数えるか)は工場によって違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うか量産工場の製造部としてプレイすると、画面の右上にずっとMoveのパーセントが出ています。朝シフトの08:30の朝会ではMoveを報告し、会議室の壁の生産ボードには「MOVE達成率」82%と、「エッチング工程のWIP」の欄があります。
fab24hrで製造部の1日を:ETCH-03が止まり、後ろに9ロットが並び、朝会ではみんながあなたのMoveの数字を待っています。
製造部で遊び、MoveとWIPを見ながら1日のロットを流す先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「WIPとMoveとは? 半導体工場が毎日見る2つの数字」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/what-is-wip/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
ほかの記事
静電チャック(ESC)とは? 真空の装置でウェーハをどう固定し、なぜ裏面にヘリウムを流すのか
ウェーハのスクラップとは? いつ救えなくなり、誰が決めるのか
ファブとは? 半導体の「ファブ」と「ファブに入る」の意味
クリーンルームはどれくらいきれい? クラス100、ISO 5の数え方
このサイトのほかのページ
- fab24hrとは?:2つの遊び方、4つのシフト、よくある質問、参考にした資料
- チップの一生:1個のチップの一生:テープアウト、試作、量産、ウェーハテスト、パッケージ、出荷、それぞれの段階でしていること
- 半導体工場エンジニアの一日:PE・EE・PIE・製造部の役割分担と、一日のタイムライン
- 半導体工場には誰がいる:技術員、製造部、プロセス、装置、ファシリティ、インテグレーション、品質保証、生産管理、マスク、開発、課長、メーカー、後工程のテストと組立:それぞれの一日
- 半導体工場の業界用語を、やさしく解説:MO、ホールド、Qタイム、OCAPなどの業界用語を、ひとことでやさしく
- 半導体入門講座:チップの一生をたどる:半導体入門講座:チップの一生をたどる図解ノート、スライド、必読記事、3D装置、考える問い。独学にも授業にも
- 半導体工場の装置を、分解して見る:31種類の半導体製造装置(エッチング、露光装置、CMP、拡散炉、後工程…)が何をしているか。どれも3Dモデルで分解して見られます
- 授業でfab24hrを遊ぶ:半導体の授業・教材:20/40分の流れ、1章1コマと1エリア1コマ(3D装置・ゲーム・記事)、話し合いのテーマ、ワークシート、よくある質問
- 紹介とメディア素材:プロモーション動画、ゲーム画面、紹介文と基本情報