MESとは? 半導体工場のコンピューターは、どのロットがどこにいるかをどう知っているのか
MESは Manufacturing Execution System の略で、日本語では製造実行システムと呼びます。半導体工場のMESは、ウェーハのロット一つひとつを覚えておくコンピューターシステムです。そのロットの名前、通る数百の工程、いまどの工程にいて、次はどこへ行くか。工場でいうディスパッチ、トラックイン、トラックアウトは、すべてこれを通ります。
なぜ半導体工場にMESが必要なのか
宅配便を思い浮かべてください。荷物には伝票番号があり、拠点を通るたびに読み取られます。MESも少し似ていますが、記録するだけではありません。各工程に、このロットをどう処理するかを伝え、処理する前に、まちがったものを止めます。
半導体工場では、これが特に欠かせません。1ロットのウェーハは数百の工程を、何か月もかけて通ります。チップは1層ずつ積み上げてつくるので、層ごとにリソグラフィやエッチングへ何度も戻ります。しかもウェーハはどれも同じに見え、装置の前に立っても、3層目なのか30層目なのかはわかりません。だから「次に何をするか」を人の記憶に任せることはできません。
MESを使う工場は半導体だけではありません。公開されている国際的な参照モデルでは、MESは真ん中の層に置かれます。上は受注や計画のシステムで、月・週・日の単位で動きます。下は装置を直接制御するもので、秒かそれより短い単位で動きます。MESが受け持つのは、日・シフト・時間・分の単位の仕事です。
1ロットを追いかける:MESは各ステップで何をしているか
ステップ1:ウェーハ投入で、ロット番号と工程の順番がつく
- 何をする:ウェーハ投入のとき、MESはロットにロット番号をつけ、中にどのウェーハが入っているかを記録し、通る工程の順番をひもづけます。数百の工程それぞれに、どの種類の装置を使い、どの条件で処理するかが書かれています。ウェーハ1枚ずつにも、縁の近くにレーザーで番号が刻まれています。
- なぜ:ここから先、「何番目の工程まで進んだか」を知っているのは工程の順番だけです(投入の日に何が起きるかは「ウェーハ投入とは?」へ)。
- しないとどうなる:どこまで進んだかを人が覚えるしかありません。1工程抜けたり重なったりしても、何工程も先まで気づかないかもしれません。
ステップ2:工程に着いたら、ディスパッチがどれを先にするかを決める
- 何をする:同じ種類の装置の前には、たいてい何ロットも並んでいます。ディスパッチシステムはMESのデータを読みます。各ロットがどこにいて、どれだけ急ぎで、残り時間はどれくらいか。いまどの装置が動けるか。そしてルールに従って、装置ごとに次のロットを決めます。
- なぜ:装置よりロットのほうが多いので、順番で各ロットの待ち時間が決まります。どのロットを優先するかは、生産管理が先に立てた計画です(「半導体工場の生産管理は何をしている?」へ)。特急の割り込み方は「ホットロット(特急ロット)とは?」へ。
- しないとどうなる:データが古いと、もう止まった装置にロットを送ったり、期限の近いロットをずっと後回しにしたりします。
ステップ3:装置に入れる前に、確かめる
病院では薬を渡す前に、看護師が患者さんのリストバンドを読み取り、次に薬を読み取って、正しい人に正しい薬かを確かめます。ロットを装置に入れる前、MESも同じようなことをします。
- このロットはここにいていいか? 工程の順番どおりなら、次はほんとうにこの工程か。工程をまちがえたロットや、1工程飛ばしたロットは、ここで止まります。
- 装置は処理できるか? 状態が「生産できる」になっている必要があります。メンテナンス中、ダウン中、直ったけれどテストランがまだの装置はだめです。メンテナンスをもう先に延ばせない装置も、先にメンテナンスで止めます。その工程に必要な条件を、装置が持っていることも確かめます。
- どのレシピか? システムが工程の順番から呼び出して作業票を出すので、ウェーハ番号もレシピも、人が選んだり書き写したりしなくていい(「半導体のレシピとは?」へ)。人が自分で選ぶときに、まちがったものを選べばMOです(「MOとは?」へ)。
- Qタイムを過ぎていないか? 前のある工程が終わった瞬間から数えます。たいていは1つ前の工程です。過ぎていれば、ウェーハの表面がもう変わっているかもしれず、そのまま先へは進めません(「Qタイムとは?」へ)。
なぜ処理の前に確かめるのか。装置は、まちがったロットを渡されたことを知りません。まちがった条件のまま、正確にやり終えてしまいます。そして多くの工程は、やったら元に戻せません。4つとも合っていて、はじめてロットは「トラックイン」します。装置がケースの番号を読み取り、合っていればふたを開けて、ウェーハを1枚ずつ取り込みます。
ステップ4:終わったらトラックアウトし、この工程を記録する
- 何をする:装置での処理が終わると、MESは1行を記録します。どのウェーハを、どの装置で(チャンバーがいくつもある装置なら、どのチャンバーかも多くの場合たどれます)、どのレシピで、誰が操作し、何時に入って何時に出たか。この工程に測定があれば、測った数字もロット番号といっしょに保存します。そしてトラックアウトします。
- なぜ:このあとのことは、すべてこの1行が頼りです。Qタイムがある工程なら、この瞬間から数え始めます。測った数字は管理図に打たれます。
- しないとどうなる:1件記録が抜けると、あとで調べる人は、そのウェーハがその装置を通っていないと思ってしまいます。
ステップ5:問題があれば、ホールド
- 何をする:測った数字が限界の外に出た、Qタイムを過ぎた、装置が処理の途中でトラブルを起こした。そんなとき、ロットはMES上でホールドされます。システムはそのロットをディスパッチしなくなり、ロットは次の工程にトラックインできません。誰かが処置を決めるまで、そのままです(「ホールドとは?」へ)。
- なぜ:問題がありそうなロットが1工程先へ進むたびに、もう悪くなっているかもしれないウェーハに、また手間をかけることになります。
- しないとどうなる:口で伝えるだけだと、シフトが替わったあと、誰かが次の装置に入れてしまうかもしれません。
ステップ6:次の工程へ
- 何をする:問題のないロットは、工程の順番どおり次の工程へ進みます。搬送システムがディスパッチの決定を受けてOHTを呼び、ケースを運びます(「ウェーハは工場の中をどう移動する?」へ)。
- なぜ:MESは次の工程にどの種類の装置が必要かを知っているので、ケースは行き先を人が考えるのを待たなくていい。
- しないとどうなる:人の記憶と手押しに頼ると、ケースを別の装置へ運ぶまちがいが起きやすくなります。
この数ステップを、数百回くり返します。
MESはほかのシステムとどうつながっているのか
半導体工場のシステムは1つではなく、それぞれ別のものを見ています。
| システム | 見ているもの |
|---|---|
| 搬送 | OHTがどのケースをどこへ運ぶか |
| 測定 | 膜の厚さ、線の幅、層どうしのずれ |
| SPC | 測った数字を管理図に打ち、工程がずれてきていないか |
| FDC | 装置のセンサーの数字:圧力、温度、ガス流量 |
| APC | 測った数字から、次のロットをどれだけ調整するか |
これらをつなぐのは、同じロット番号、同じ装置、同じ時刻です。MESは総元帳のようなもので、みんなが「どのロットが、どの装置で、何時に」で突き合わせます。だから数字が限界の外に出たとき、どのロットを止めればいいかがわかります。SPCの点が管理限界の外に出たり、FDCが装置のようすがおかしいと見つけたりしたら、現場の人がOCAP(異常時の対応計画)に従って、疑わしいロットをMES上でホールドします。各システムが何をしているかは「SPCの管理図とは?」「FDCとは?」「APCとは?」へ。測り方は「半導体工場は、工程がうまくいったかをどう確かめる?」へ。
なぜ記録を残し続けるのか
問題が起きたとき、さかのぼって調べる必要があるからです。これをトレーサビリティ(追跡できること)と呼びます。品質マネジメントの国際規格も、追跡が必要な製品については、どれがどれかを見分けられるようにし、追跡に必要な記録を残すことを求めています。
仮の例です。今朝、あるエッチング装置のモニターウェーハを測ったら、限界の外に出ていました。最後に正常だったのは昨夜10時です。まずMESで調べます。昨夜10時からいままでに、この装置はどのロットを処理し、それぞれいまどの工程にいるか。そのロットをすべて先にホールドし、1ロットずつ判断します。記録があれば、止めるのはそのロットだけで済みます。なければ、その時間帯のロットを全部止めるか、問題ないと賭けるしかありません。
逆向きにも調べられます。できあがったいくつかのロットの検査結果が特に悪ければ、それらが通った装置を比べて、悪いロットだけが通った装置を探せます(「根本原因分析とは?」へ)。出荷からずっとあとで問題が出るチップもあり、そのとき調べるのも、当時のあの数行です。だから1行1行を正しく、もれなく、十分な期間残しておくのです。
fab24hrでは
「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプして製造部を選びます。担当はエッチングエリアです。夜シフトの19:45、MESに警告が出ます。P-2E08のQタイムが残り30分なのに、引き継ぎ表にはこのロットがありません。ロットの履歴を開き、Qタイムがどの行から数えられているか、誰がストッカーに置いたかを1行ずつ探します。ディスパッチシステムが切断され、すべての装置のトラックインとトラックアウトが止まることもあり、処理中のロットを止めるかどうかはあなたが決めます。品質保証エンジニアなら、昼シフトに、装置で実際に流れたものとMESの記録を、区間ごとに突き合わせます。
ゲームの会社、人物、ロット番号、装置、時間は架空のもので、システムの画面は簡略化したイメージです。ゲームではディスパッチシステムとMESを同じ1つのシステムとして扱っています。MESのしくみは公開されている一般的な資料をもとに書いていて、実際のシステムややり方は会社ごとに違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うか量産工場の製造部を遊ぶと、夜シフトにMESの警告が出ます。P-2E08のQタイムが残り30分なのに、引き継ぎ表には載っていません。ロットの履歴を1行ずつ見て、Qタイムがどこから数えられているか、誰がどこに置いたかを探します。ディスパッチシステムが切断され、すべての装置のトラックインとトラックアウトが止まることもあります。
fab24hrで製造部の一日を。19:45、MESにQタイムの警告。でも引き継ぎ表に、そのロットはありません。
製造部で遊び、MESでロットが通ってきた工程を調べる先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「MESとは? 半導体工場のコンピューターは、どのロットがどこにいるかをどう知っているのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/what-is-mes/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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