新しい技術は、論文から量産まで何年かかる? チップのニュースの「ブレークスルー」を読む
ニュースではよく「研究チームが1ナノのトランジスタを作った」「2次元材料で大きなブレークスルー」「量子チップ」「光で計算」といった言葉を見かけます。1〜2年後にはスマートフォンに入りそうに聞こえます。けれど実際には、チップの新しい技術が最初の論文から大量生産にたどり着くまで、10年以上かかることがよくあります。研究室で1個できるのは最初の関門にすぎません。毎回同じに、安く、長持ちするように作れなければならず、装置と材料もひとそろい追いつく必要があります。
「研究でできた」「量産が始まった」「広く使われている」は何が違う?
ニュースに出てくるこの3つの言い方は、あなたのスマートフォンからの距離がまったく違います。
| 言い方 | どこで | どれくらい |
|---|---|---|
| 研究でできた | 研究室 | 1個か数個。動けばいい |
| 量産が始まった | 量産工場 | 毎日たくさんのウェーハ。顧客に売る |
| 広く使われている | 多くのメーカー、多くの製品 | ふつうの人が買うものの多くに入っている |
論文から量産まで、どんな関門がある?
ステップ1:研究室で1個作る
研究チームが新しい材料や形で、動くスイッチやメモリのセルを1個作り、論文にします。このステップで示すのは、そのアイデアがうまくいくということです。ただ、1個をゆっくり作るしかない方法で作ることも多く、チップにできるかどうかはまだわかりません。
ステップ2:たくさん、どれも同じに作る
次に、ウェーハ1枚全体にたくさん作り、どれもほぼ同じように動くようにします。スマートフォンのチップには100億個を超えるトランジスタがあり、同じリズムでオンとオフを切り替えなければならないからです。一部が大きくずれると、チップ全体が使えなくなることがあります。
ステップ3:ほかの数百の工程とかみ合わせる
チップは数百の工程を通るので、新しい工程は、前後の工程とぶつからないように入れなければなりません。新しい材料が、あとの工程の高温に耐えられないこともあります(ウェーハが通る熱には合計の帳簿があり、熱履歴と呼びます)。ほかの装置を汚してしまうこともあります。たとえば配線をアルミから銅に変えたとき、銅がシリコンにわずかでも入るとトランジスタがリークするので、先に薄い膜で包み、銅に触れた装置は前工程と分けるようになりました(「チップの中の配線はどうつくる?」)。この関門を越えられないと、新しい工程がどれほどよくても、前後の工程をだめにしてしまいます。
ステップ4:装置と材料が追いつく
研究室の装置は1日に数枚こなせば十分ですが、量産の装置は1時間にたくさん、24時間止まらずに処理し、しかもどの装置でも同じ結果を出さなければなりません。だから装置や材料のメーカーは、量産用の装置、ガス、薬液を別に作り、測定装置も新しい構造を測れるようにします。装置が遅すぎればウェーハ1枚が高くなりすぎ、測れなければ正しく作れているかわかりません。
ステップ5:開発ラインで試作し、信頼性を試す
次に開発ラインで、実際の流れどおりにチップ全体を作ります。これが試作です。1ロットをいくつかの組に分け、組ごとに条件を1つだけ変えて(スプリット実験)、いちばんよい組を探すことがよくあります。チップは信頼性の試験も受けます。たとえば高温で電圧をかけて1000時間連続で動かし(HTOL)、早く壊れないかを見ます(「バーンインとは?」)。試験に通らないまま出荷すると、使う人の手元で壊れるかもしれません。
ステップ6:量産工場に渡し、歩留まりを上げる
安定したら、条件をひとまとめにして標準プロセス(POR)に書き、技術移管審査を通ってから量産工場に渡します。これを技術移管と呼びます(「開発ラインと量産工場は何が違う?」)。量産工場では、同じ種類の装置を何台も使って同じものを作れるようにし、歩留まりも少しずつ上げていきます(「チップが大きいほど、歩留まりが下がるのはなぜ?」)。歩留まりが低すぎると、良品1個あたりのコストが高すぎて売れません。
ステップ7:広く使われるようになる
はじめは、新しい技術を使うのは、それをいちばん必要とし、費用も払えるチップだけ、ということがよくあります。使うメーカーが増え、装置や材料が安くなって、ようやくほかの製品に広がります。何世代も前のやり方を使い続けるチップも多くあります。それで十分で、安いからです(「ニュースの「成熟プロセス」とは?」)。だから「量産開始」の日、あなたの手元にあるものの多くは、まだそれを使っていません。
3つの例:それぞれどれくらいかかった?
| 技術 | 研究でできた | 大量生産が始まった | その後 |
|---|---|---|---|
| 立てたトランジスタ | 1980年代の終わりに似た構造、大学の論文は1990年代の終わり | 2010年代の初め | 2010年代半ばには、最先端の世代の主流に |
| EUVリソグラフィ | 1980年代 | 2010年代の終わり | 今も、最先端のチップのいちばん細かい層だけ |
| 上に積み重ねるメモリ | 2000年代後半(いま量産しているやり方) | 2010年代前半 | その後、この形に切り替わるフラッシュメモリが増えた |
- 立てたトランジスタ:電流が流れる通り道(チャネル)を立てて、ゲートが三方からはさむので、とても小さなスイッチでもしっかり切れます。どういう形か、その後どう四方を包む形に変わったかは「FinFETとGAAとは?」へ。
- EUV:波長が約13.5ナノメートルの光で、より細かいパターンを印刷できます。試作の装置はずっと前からありましたが、光源が弱く、1時間に印刷できるウェーハが少なすぎて、追いつくまでにさらに何年もかかりました(「極端紫外線(EUV)とは?」)。
- 上に積み重ねるメモリ:フラッシュメモリは平面ではもうあまり小さくできないので、セルを1層ずつ上に積み、上から穴で貫きます。いまでは百層を超えています。3つの中ではいちばん速く進んだ例で、上に積むアイデア自体は、もっと前から出ていました。
新しい計算の方式は、すぐにスマートフォンに入る?
多くはまだ研究中です。スマートフォンやパソコンの中で働いているのは、今もトランジスタです(「トランジスタとは?」)。
- 量子コンピュータ:実験用の装置はすでにあり、絶対零度近くまで冷やさないと動かないものもあります。得意なのは一部の特定の問題で、スマートフォンのチップに取って代わるためのものではありません。
- 光で計算する:光でデータを「送る」ことは、データセンターですでに使われています(「ニュースの「シリコンフォトニクス」とは?」)。光で「計算する」ほうは、ほとんどがまだ研究中です。
- 2次元材料:原子1層ぶんの厚さしかない材料で、もっと小さなスイッチになるかもしれません。ただ、ウェーハ全体に均一に育てることや、金属とうまくつなぐことは、まだ解決の途中です。
技術がどこまで来たかを測る物差しはある?
あります。よく使われるのが技術成熟度レベル(TRL)で、1から9まであります。3あたりでアイデアがうまくいくと示され、4で研究室で確かめられ、9は実際のシステムで使われて問題がないと証明された段階です。もとは宇宙開発の計画で使われていたもので、今は多くの政府の研究計画でも使われています。ほかに「量産の準備ができているか」だけを測る製造成熟度レベルもあり、1から10まで、その1つが「試作ラインで作れることを示した」です。
次にニュースを見たら、こう読む
- 「研究チームが1ナノのトランジスタを作った」:ステップ1が終わり、作れることを示した段階です。この「ナノ」は、「2ナノのプロセス」の「ナノ」とも別のものです(「ニュースの「2ナノ」、いったい何が2ナノなのか?」)。
- 「2次元材料で大きなブレークスルー」:たいていはステップ1、2の前進で、たとえばより大きく、より均一に作れるようになった、という話です。量産までには、まだいくつも関門があります。
- 「試作を開始」:ステップ5まで来て、少しずつ作りながら問題を探し、信頼性を試しているところです。
- 「量産を開始」:ステップ6で、量産工場が大量に作り始めました。歩留まりはまだ上がっている途中かもしれず、広く使われるのはもう少し先です。
fab24hrでは
fab24hrで「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「開発ライン」を押して、左右にスワイプして開発インテグレーションエンジニアへ。夜シフトは技術移管審査の前の晩です。8項目のリストのうち2つがまだで、信頼性試験はあと3週間かかるのに、顧客は2週間前倒ししたいと言います。リスク投入を勧めるかどうかは、あなたが決めます。開発ラインには装置メーカーの常駐エンジニアもいて、届いたばかりのエッチング装置を、立ち上げの確認から検収のサインまで見守ります。メインストーリー「チップの一生」の第1〜5章も開発ラインが舞台です。
ゲームが描いているのは、この道のりの最後の数ステップです。最初の12枚を投入してから技術移管審査まで、約4か月。その前の研究はゲームには出てきません。ゲームの会社、チップ、人物、装置、スケジュールは架空のものです。新しい技術にどれくらいかかり、どんな関門を越えるかは、公開されている一般的な資料をもとに書き、年代は10年単位までにしています。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
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fab24hrでは、信頼性試験はあと3週間、顧客は2週間足りません。試験が終わるのを待つか、先に量産工場でウェーハを投入するか。提案するのはあなたです。
第4章「2週間前倒し」を遊び、リスク投入を勧めるか決める先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「新しい技術は、論文から量産まで何年かかる? チップのニュースの「ブレークスルー」を読む」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/lab-to-fab/
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