半導体工場の変更管理とは? 条件を1つ変えるのに、なぜ何人もの承認が要るのか
変更管理(change control)は、半導体工場が工程の条件を1つでも変える前に、必ず通す手順です。何をなぜ変えるのかを書き、どこに影響しうるかを評価し、少量で試して比べ、関係する人が確認してサインし、必要なら先に顧客に知らせてから、正式に変える。変えたあとも見張り続ける。温度を数度上げる、時間を数秒延ばす、ガスの種類を変える、新しい装置を加える、材料の仕入れ先を替える、どれも変更です。日本の製造業でいう「4M変更」の管理も、同じ考え方です。顧客に送る変更の通知は、PCNと呼ばれることが多いです。
よくなりそうなら、すぐ変えてはいけないのはなぜ?
チップは数百の工程を積み重ねてできていて、変更の影響は、変えたその工程では表に出ないことが多いからです。
たとえば、洗浄で数秒長く浸けると、その工程ではよりきれいに洗えるかもしれません。でも薬液は、下の層も少しだけ多く溶かします。この工程の測定では何も見つからず、ウェーハができあがって電気的な数字を測るとき(WAT、「WATとは?」)になって、ある数字がずれているとわかります。そのあいだに、もう数十工程進んでいます。チップを長く使ってはじめて出る影響もあるので、工程を変えると、信頼性試験のやり直しが必要になることがよくあります。たとえば、チップを高温で6週間ほど動かし続けるHTOLです(「バーンインとは?」)。
もう1つの理由は顧客です。顧客はこのチップに合わせて自分の製品を設計し、評価しています。評価したのは「このつくり方でつくったチップ」です。どのロットも同じようにつくられているから、使い続けられます。量産が従う標準プロセスをPORと呼び、きびしく固定されているのはこのためです。
何が「変更」になる?
製造業では、変わりうるものを4つに分けて「4M」と呼びます。人(Man)、機械(Machine)、材料(Material)、方法(Method)です。半導体工場では、あとの3つはたとえばこうです。
- 機械:その工程をまだ流したことのない装置で流す、仕様の違う部品に替える。同じ数字でも、装置が違えば結果が変わることがあります。
- 材料:ガスや薬液の仕入れ先を替える、仕入れ先が自分の配合を変える。
- 方法:レシピの数字(温度、時間、ガス流量、パワー)を変える、工程を1つ増やす・減らす。
メンテナンスで同じ仕様の新しい部品に替えるのは、ふつうはメンテナンスの扱いです。それでも、替えたあとはテストランが要ります。
変更はどんな手順で進む?
よくある7つの手順です。呼び方や細かいところは工場ごとに違います。
- 変更を申請する:何を変えるのか、なぜ変えるのかを書きます。あとに続く人は、みなこの「なぜ」から判断を始めます。あいまいだと、ほかの人は推測するしかなく、あとから理由もたどれません。
- 影響を評価する:この工程をどの製品が使っているか、あとのどの工程に響くか、リスクはどれくらいかを調べ、リスクが大きいほど確認を増やします。1つの工程はたいてい複数の製品が通ります。目の前の1製品だけを見ていると、別の製品を壊すかもしれません。
- 少量で試し、測って、比べる:テスト用のウェーハを使うか、スプリット実験で数枚だけ新しい条件に流し、何も変えない比較用のグループを残します。いくつものロットで見ることもよくあります。比較用があるから、違いが新しい条件のせいなのか、たまたまそのロットが違っただけなのかを見分けられます。いきなり顧客のロットまるごとで試すと、失敗したときはロットまるごとです。
- 関係する人が確認してサインする:変更が何に触れるかに応じて、プロセス、インテグレーション、品質保証、装置の人がデータを見てサインします。見るところはそれぞれ違います。この工程、あとの工程、出荷する品質、装置が耐えられるか。1人がうなずいただけでは、1つの角度からしか見ておらず、ほかのところの問題にはだれも気づきません。
- 必要なら顧客に知らせ、返事を待つ:顧客に影響しうるなら、先にPCNを出します(次の節)。顧客には、自分の製品に影響が出るかを確かめる時間が要ります。知らせずに変えて、あとで顧客が気づけば、信頼は失われます。
- レシピ、文書、教育を正式に変える:システムを新しい版に切り替えて古い版は使えなくし(「半導体のレシピとは?」)、SOPも直し、作業する人は始める前に教わります。装置と文書と人が、同じ1つのやり方に従うためです。システムは変わったのに紙が古いままだと、夜勤が古いやり方で作業するかもしれません。
- 変えたあとも見張る:新しい条件になってからも、測った数字は管理図に打ち続け、変えた直後の数ロットはいつもより注意して見ます(「SPCの管理図とは?」)。試作の数ロットで、量産で起きるすべての場面を試せるわけではありません。だれも見ていなければ、問題は顧客の手元に届くまで見えないかもしれません。
PCNとは? いつ顧客に知らせる?
PCNは product/process change notice の略で、製品・工程の変更通知のことです。仕入れ先が顧客に送る文書で、何を変えたか、なぜ変えたか、どんな影響が見込まれるかを書きます。
すべての変更で出すわけではありません。公開されている業界標準は、変更を2つに分けます。形状、取り付け、機能、品質、信頼性に影響しうるものは大きな変更で、必ず知らせます。小さな変更を知らせるかどうかは、双方が前もって決めた取り決めによります。つくる工場を移す、工程を変える、材料を変える、といった変更は大きな変更になることが多いです。
知らせるのは早めです。業界でよくあるやり方は、変更した製品を初めて出荷する少なくとも90日前に知らせることです。それより早く出荷するには、顧客の承認か、別の取り決めが要ります。車のように何年も使う製品では要求がきびしく、変更すると規格に沿って評価をやり直すことがよくあります(「ニュースの「車載半導体」とは?」)。
一時的な変更、逸脱申請とは? APCの自動補正とは何が違う?
| どれくらいの間 | 例 | |
|---|---|---|
| 変更 | これから先ずっと新しいやり方 | PORの数字を1つ変える |
| 一時的な変更 | 終わりの時刻があり、来たら元に戻す | 装置が部品を待つ数日だけ、別の条件でしのぐ |
| 逸脱申請 | 申請に書いたロットだけ | 時間の上限を過ぎて待ったロットを、エンジニアがまだ使えると判断した |
一時的な変更も申請とサインが要り、いつ終わるかも書きます。いちばん怖いのは、しのぎ切ったあと、だれも元に戻すのを覚えていないことです。逸脱申請はそのロットにずっとついて回るので、あとで問題が出ても追いかけられます。
APCの補正は別のものです。ロットを測るたびに、システムが前もって設計したルールに従い、決めておいた数個の数字だけを調整して、次のロットを目標に近づけます(「APCとは?」)。反対に、人がその場で固定された数字を動かすのは、結果がよさそうに見えても、手順を通していない変更です。
監査では何を調べる?
監査は、前もって決めた要求事項に照らして、「書いてあること」と「やっていること」が合っているかを確かめることです(「半導体工場の品質保証(QA)は何をしている?」)。工場が自分で調べる内部監査と、顧客が人を送って調べる顧客監査があります。
変更について、よく見るのは2つです。現場で使っている文書とレシピが、承認された最新の版か。変更のたびに、何を変えたか、なぜか、データはどこか、だれがサインしたかの記録があるか。品質マネジメントの国際規格も、生産での変更について、レビューの結果とだれが承認したかの記録を残すよう求めています。記録は監査のためだけではありません。いつか問題が起きたとき、どの変更が原因で、どのロットから始まったのかを、それでたどります。
fab24hrでは
fab24hrでは、「出勤」を押して「工場の一日」を選び、「今日のあなたは」のカードで「量産工場」を押し、左右にスワイプしてプロセスエンジニアで止め、名前の下の「洗浄」を押すと、洗浄のプロセスエンジニアになります。朝シフト「上がるパーティクル」では、WET-05の浸漬時間を延ばしてしのぎ、薬液交換を午後に回すこともできます。そう選ぶと、ホー課長が「浸漬時間を延ばすのは一時的な変更だから、票には私がサインした」と言います。夜シフト「強くなった薬液」では、替えたばかりの薬液が強めで、朝に延ばした時間を戻していなければ、洗いすぎになります。
スワイプして装置エンジニアで止め、「洗浄」を押すと、夜シフト「強すぎる」はもっと直接です。モニターウェーハのエッチング量が上限ぎりぎり。プロセスに浸漬時間を戻してもらい、モニターウェーハで確かめるか、自分でヒーターの設定を数度下げて、今夜のロットを先に通すか。後者は速いけれど、プロセスの条件表には、この変更は載っていません。
メインストーリー「チップの一生」第4章「2週間前倒し」では、開発ラインの技術移管リストにPORがあり、顧客の同意書もあります。第5章「最後の空欄」では、PORの最後の空欄を埋めます。そこに書いた数字を、量産工場は何年も使い続けます。
ゲームに出てくる会社、人物、装置番号、数字は架空のものです。変更管理の進め方は、品質マネジメントの規格や業界標準の一般的な説明をもとに書いていて、実際の呼び方、書式、だれがサインするかは会社ごとに違います。ほかの用語は「半導体工場の業界用語を、やさしく解説」へ。
ゲームのどこで出会うか洗浄のプロセスエンジニア(量産工場 › プロセス › 洗浄)を遊ぶと、朝は浸漬時間を延ばしてしのぐことができ、ホー課長が一時的な変更としてサインします。夜には替えたばかりの薬液が強く、その延ばした時間を元に戻さなければなりません。
fab24hrでは、一時的な変更はサインして終わりではありません。朝を乗り切ったら、夜にだれかが元に戻すのを覚えていなければなりません。
洗浄のプロセスエンジニアで遊び、朝の一時的な変更を夜に戻す先生へ:この記事は「授業でfab24hrを遊ぶ」と組み合わせて授業で使えます。
この記事を引用する「半導体工場の変更管理とは? 条件を1つ変えるのに、なぜ何人もの承認が要るのか」fab24hr、更新。https://fab24hr.com/ja/blog/change-control/
授業や非営利の目的なら無料で使えます。投影、プリントへの掲載、生徒への配布もかまいません。fab24hrと明記してください。販売することや、自分の作品として使うことはできません。 誤りを見つけたら報告
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